ワーグナーとも縁が深かったクリントヴォルト編曲によるモーツァルトの「レクイエム」の世界初録音がリリースされた。ピアノ独奏版は音源としてのみならず、書誌学的にも極めて珍しく、貴重である。昨年4年ぶりの来日を果たしたホロデンコは、楽器の可能性を最大限に引き出しながら、ピアノによる同作品の解釈に成功している。本来の独唱パート部分を鮮やかに浮き彫りにしつつ、音楽を重層的に構築していく様には卓越した声部コントロール能力が感じられる。さらにピリオド・ピアノの使用によって編曲当時の響きも再現している。「レクイエム」の受容史に新たな1ページを付け加える注目の一枚。
文:大津 聡
(ぶらあぼ2024年2月号より)
【information】
CD『モーツァルト:レクイエム(ピアノ独奏版)/ヴァディム・ホロデンコ』
モーツァルト:レクイエム(フランツ・クサヴァー・ジュスマイヤー補筆完成版に基づく、カール・クリントヴォルト編曲ピアノ独奏版)
ヴァディム・ホロデンコ(ピリオド・ピアノ)
NIFC/東京エムプラス
XNIFCCD 150 ¥3300(税込)