アレクセイ・リュビモフ(ピアノ)

親密な空間で享受する巨匠のピアニズム

 ロシア・ピア二ズムの真髄を今に伝える、アレクセイ・リュビモフ。ゲンリヒ・ネイガウスの教えを直接受けた最後の世代であり、独自の理念を貫く演奏活動で一目置かれる巨匠だ。今回、100席の贅沢な空間にベスト・コンディションのスタインウェイD274を常設するsonorium(ソノリウム)に、この鬼才が登場する。
 リュビモフは1960年代から同時代の西側の音楽に関心を示し、シュトックハウゼンやリゲティ、ブーレーズなどの作品のソ連初演を行った。これによりソ連当局から非難され、国外に出ることを禁止された時期もあったという。同時にルネサンス以前の作曲家に注目して古楽器演奏にも取り組むなど、広い視野を持って芸術に向き合ってきた人だ。
 今回取り上げるのは、モーツァルト、シューベルト、C.P.E.バッハ。古典派からロマン派にさしかかる時代の、ドイツ・オーストリア鍵盤楽器音楽の“旨味”を集めたようなプログラムを弾く。リュビモフの持ち味の、極めて優しくあたたかい表現。そして鐘のように響く丸い特別な音を、音響の良い親密な空間で聴くことができる機会だ。聴衆のエネルギーを受け取りながら神がかった音楽を生んでくれる瞬間に、期待せずにはいられない。
 公演は、ロンドンを中心に小ホールでの演奏会を開催するNPO、MCS Young Artists Fund主催によるもの。終演後には、同団体の企画恒例だという“演奏家を交えてシャンパンを楽しむ”時間が用意されている。アーティストの持つ独特の空気を間近に感じられるそんなひとときも併せて、間違いなく貴重な時間となるだろう。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

11/30(日)18:30 sonorium
問:sonorium 03-6768-5026 
http://www.sonorium.jp