INTERVIEW 山田和樹(指揮) 碓井俊樹(ピアノ) 北川森央(フルート)

横浜シンフォニエッタ 〜創設から現在まで

著名音楽祭への招聘をはじめ、海外公演やCD録音、テレビ出演など多彩な活動で注目を集めている「横浜シンフォニエッタ」。メンバーは国内外で活躍するソリストや主要オーケストラの奏者たち。10月19日には、3年に一度の音楽フェスティバル「横浜音祭り」の名物企画「横浜18区コンサート」に出演し、室内楽コンサートを開催する。創設メンバーである山田和樹(指揮)、碓井俊樹(ピアノ)、北川森央(フルート)の3名が、同楽団の歴史と魅力を語る。

取材・文:奥田佳道(音楽評論家)

 2022年7月、英バーミンガム市交響楽団とともにロンドンの夏の風物詩「BBCプロムナードコンサート」(通称プロムス)に出演し、賞賛されたマエストロ山田和樹。ヤマカズは来春バーミンガム市響の首席指揮者に就任し、6月〜7月には待望の日本公演も予定されているのだが、それについてはまたの機会に。

 ベルリンを拠点にヨーロッパのトップステージで創造の喜びを分かち合うヤマカズは、鮮やかな技、しなやかな音楽性ばかりでなく、音楽、演奏家、聴き手の環を何よりも大切にするマエストロだ。
 そんなヤマカズを慕って発足したのが、優れた若手、中堅のプレイヤーが顔を揃えた横浜シンフォニエッタである。

横浜シンフォニエッタ(過去の公演より)

 その横浜シンフォニエッタの精鋭が、モーツァルトのクラリネット五重奏曲イ長調K.581とシューマンのピアノ五重奏曲変ホ長調op.44というファン憧れの名曲を携え、横浜18区コンサートに出演することになった。
 3年に一度開催される音楽の祭典〈横浜音祭り〉の一環。
 モーツァルト芸術の昇華とドイツ・ロマン派の化身シューマンの逸品への期待は尽きないが、その前に「横浜シンフォニエッタっていったい何者!?」との視座で、当事者たちに大いに語ってもらうことになった。

横浜シンフォニエッタ・アンサンブル(c)Kazuhiko Miyata

 オンラインでのインタビュー。参加者はソロもアンサンブルもお任せあれのピアニストで、横浜シンフォニエッタのゼネラルマネージャー/代表理事の碓井俊樹、同シンフォニエッタの愛すべきフルーティスト、事務局長/理事で聖徳大学音楽学部准教授の北川森央(博士)、そして音楽監督/理事のマエストロ。
 スロヴァキアの首都ブラチスラヴァでの公演を成功裏に終えたヤマカズは、ウィーン・シュヴェッヒャート空港のラウンジからの参加となった。

山田和樹(c)Zuzanna Specjal、碓井俊樹、北川森央(c)森万恭

 横浜18区コンサートのチラシ裏面の紹介文によれば「横浜シンフォニエッタとは、いまをトキめく世界的指揮者の山田和樹が98年、東京藝術大学在学中に結成した楽団を母体とし、2005年以来、現在のネーミングで活動しているプロフェッショナルの楽団です(サイズ的には中規模オーケストラ)。その名の通り、横浜を演奏の拠点としますが、国内外の音楽祭への参加やオペラのピットにも入るなどダイナミックな活動の展開も大きな魅力。(以下続く)」となる。
 山田和樹のもとに藝大生が集い、ベートーヴェンの交響曲全曲を演奏した、との記述も見かけたことがある。筆者が書いたのかもしれない。

山田 指揮科の僕は指揮がしたい、器楽科の学生はオーケストラで演奏したい。そのシンプルな気持ちからスタートしました。第1番、第2番をなんとか形にした後、僕が3年生のときに新入生歓迎コンサートで「英雄」をやったのが最初の演奏会です。なんと岡山潔先生(1942~2018)がコンサートマスターでした。岡山先生は僕たち(横浜シンフォニエッタ)のコンサートマスター長岡聡季(現在北海道教育大学岩見沢校准教授、博士)の先生だったので来てくださったのですが、あの「英雄」から雰囲気が変わった。
そして1999年の暮れ、川口リリアでワーグナーの「ジークフリート牧歌」とベートーヴェンの交響曲第7番を演奏したのです。学外での初コンサート、TOMATOフィルのいわばデビューですね。

 TOMATOフィルハーモニー管弦楽団? たしかに1999年12月のパンフにそう記してある。

結成当初の公演より

山田 僕その頃トマトが大嫌いでね。みんな面白がり、じゃあTOMATOフィルでいこうよ、となった。

山田北川 (TO)東京いち、(MA)まともでない、(TO)とんでもないオーケストラの略でもあったね。

北川 誰にも甘えずにみんなでやっていこうという機運が、リリアで生まれたような気がします。

山田北川 マエストロ、ここで男を見せるときだ。そんな激が飛び交ったよね。

山田 真剣に、必死にやらなきゃ駄目だ。それは僕も言っていた。森央先輩(フルートの北川はヤマカズの一学年先輩)には叶わない(笑)。

 山田和樹率いるTOMATOフィルの面々は、藝大卒業後も活動を継続。2001年から年2回のペースで神奈川県立音楽堂での「音楽たまて箱」シリーズに出演。縁あって筆者もプレトークや曲間トークで公演をサポートした。
 藝大生の有志によってスタートしたオーケストラ。卒業後はふつうバラバラになる。

山田和樹(過去の公演より)

北川 解散というか自然消滅しますよね。でもTOMATOフィルはそうならなかった。
僕たちは山田和樹という指揮者、人間が大好きなのです。とにかく彼のもとで弾きたい、吹きたい。だから、外で仕事をするようになっても自然とヤマカズのもとに帰ってくるのです。みんなそう。

 ただ問題もあった。TOMATOフィルという名前である。

山田 2005年頃に、モーツァルトのレクイエムを演奏する仕事が舞い込んできたのです。先方と話しをすすめるなかで、モーツァルトのレクイエム、演奏TOMATOフィルはどうなのか…、という雰囲気になりました。

 山田和樹は決断した。

山田 TOMATOフィルは赤字続きだったこともあり、ここでちゃんとしなければ先はない。男を見せるときだ(笑)となり…。

北川碓井 それで名前を変えて、自主運営だけれど組織もちゃんとすることにしました。和樹が神奈川秦野市、僕(北川)は横浜市出身。僕たちは横浜で演奏することも多かった。

 2005年、祝!横浜シンフォニエッタ誕生、2010年には一般社団法人化され、以来、仏ナントのラ・フォル・ジュルネ音楽祭、モスクワのロストロポーヴィチ音楽祭に出演。横浜青葉台のフィリアホールでの定期公演、室内楽も好評を博してきた。

過去の公演より

 10月19日水曜の午後3時、横浜市泉区民文化センターテアトルフォンテホールに集う6人のアーティストは、その横浜シンフォニエッタの精鋭たちであり、かつ室内楽、音楽祭シーンに欠かせない音楽家なのだ。他のオーケストラで要職を担う人もいるが、みんな“横浜シンフォニエッタ組”である。

碓井 横浜シンフォニエッタの室内楽の魅力は、何年も一緒にやってきた仲間たちの“ヒューマンなタッチ”。聴きにきてくださった方々には、何かを感じて持ちかえっていただけるのでは。

 クラリネットは神奈川フィル首席奏者の齋藤雄介、ピアノは前述の碓井俊樹。ヴァイオリン加藤えりな、佐々木絵理子、ヴィオラ伴野剛、チェロ懸田貴嗣の出演に胸ときめく。アンサンブルの泰斗にして交歓の美学を愛でる実力者ばかりである。
 横浜シンフォニエッタメンバーの「響宴」を横浜18区コンサートで味わう。音楽は人だ。開演が近い。

左より:碓井俊樹、齋藤雄介、加藤えりな、佐々木絵理子©New Japan Philharmonic、伴野剛、懸田貴嗣

【Profile】
横浜シンフォニエッタ
1998年、東京藝術大学学内にて音楽監督山田和樹によりトマトフィルハーモニー管弦楽団として創設。2005年横浜シンフォニエッタに改名、10年一般社団法人化する。その後の快進撃は、フランス/ラ・フォル・ジュルネ音楽祭に日本の楽団として初めて招聘を皮切りに、モスクワ/ロストロポーヴィッチ国際音楽祭等海外の著名な音楽祭にも度々招聘され現地で大絶賛される。2019年モスクワ公演では、プロコフィエフ交響曲第1番「古典」、モーツァルト交響曲第39番を暗譜演奏しセンセーショナルな大成功を収めメディアでも大きく放映された。国内外にてCDリリース多数。テレビ朝日「題名のない音楽会」にも度々出演し、国内外から大きな注目を集めているオーケストラである。横浜文化賞文化・芸術奨励賞受賞。

横浜18区コンサート泉区
10/19(水)泉区民文化センター テアトルフォンテ
●出演
横浜シンフォニエッタ メンバー(クラリネット&ピアノ五重奏)
加藤えりな・佐々木絵理子(ヴァイオリン)、伴野剛(ヴィオラ)、
懸田貴嗣(チェロ)、齋藤雄介(クラリネット)、碓井俊樹(ピアノ)
●曲目
モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
シューマン:ピアノ五重奏曲 変ホ長調 op.44

横浜音祭り2022
2022.9/17(土)〜11/6(日) 横浜市内全域〈横浜の“街”そのものが舞台〉

問:横浜音祭りチケットセンター045-453-5080
※公演の最新情報は、公式ウェブサイトをご確認ください。