音楽を通して日本語の美しさを再発見するレクチャーコンサート
もしかすると、旅をするために羽田空港を訪れた方は、第1ターミナル2階の出発ロビーの広告スペースで「旅する日本語展」をご覧になったことがあるかもしれない。現代日本を代表するクリエイターで「くまモン」の産みの親でもある小山薫堂が、片岡鶴太郎をはじめとするアーティストと共同で行ったプロジェクトである。これは小山の『恋する日本語』(幻冬舎)という本からスタートした企画であったが、その小山も登場するレクチャーコンサートがサントリーホール(ブルーローズ)で、12月27日に開催される。主催は「團伊玖磨の音楽・レクチャー&コンサート実行委員会」で、今回のレクチャーコンサートのタイトルは「歌 もの語り〜旅する日本語〜」だ。日本指揮界の長老・秋山和慶も参加する。
「團さんとは、僕のデビュー直後ぐらいからお付き合いがあり、数多くの作品を指揮させていただきました。その縁もあって、團さんの直弟子である歌手の堀江眞知子さんとも知り合いました。また、私はいま日本センチュリー交響楽団のミュージック・アドバイザーを務めていますが、そこで作曲家であり指揮者でもある久石譲さんとの再会を果たしました。久石さんが実は小山さんととても親しくて、それらの縁で小山さんにこのレクチャーコンサートに参加してくれないか、とお願いした訳です。ふたつ返事でした」と秋山は語る。
すでに「恋する日本語」をテーマにしたレクチャーコンサートは2013年にも開催されたが、今回、再び小山も参加する。他に岩野裕一(司会)、山田武彦(ピアノ)、鈴木雄介(チェロ)、辻秀幸(朗読)などの多彩なメンバーが参加し、そこに関定子(ソプラノ)などの歌手も出演する。
「小山さんが選んでくださった日本語、例えば『心安(うらやす)』には、まどみちお/詞、なかにしあかね/曲による〈ケヤキ〉を、『追懐(ついかい)』には大木実/詞、團伊玖磨/曲による〈藤の花〉を組み合わせるなど、それぞれの日本語のイメージにあった日本歌曲を選びました」と語る堀江。時代によって変化するのが言語とはいえ、美しい日本語が次々と姿を消していくいま、もういちど日本語の魅力を歌曲とともに発見したいという想いを持つ。
「日本語は幸せに気づくために生まれた言葉なのだ…」と小山はかつて書いているが、まさにこんな時代だからこそ、言葉を通して幸せとは何かを、音楽とともに考えたいと思っている方も多いのではないだろうか。さらに堀江はこう語る。
「声楽家であり、同時に日本人であるということを、多くの声楽家にも思い返していただきたいと思っています。そこでサブタイトルに『日本人歌手はいま?そしてこれから』という言葉を加えさせていただきました。この美しく磨かれた日本語の世界を再発見するなかで、若い歌手の方々にも音楽と自分の関係を見つめ直してほしいのです」
そこで山下裕賀(メゾソプラノ)、田中裕太(テノール)というふたりの若い歌手も出演する。コンサートはチェロとピアノによるカタロニア民謡「鳥の歌」から始まるというが、様々な広がりを持つレクチャーコンサートとなりそうである。
取材・文:片桐卓也
(ぶらあぼ2022年10月号より)
歌 もの語り ~旅する日本語~
2022.12/27(火)15:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:メリー・ミューズ03-3422-8477