深遠なるゴヤの世界をピアノで描く
真のピアノ好きの心をとらえて離さないクンウー・パイクは、作品の新たな面を披露し、聴き手に驚きと悦びと発見を促す。曲のなかにドラマを見出し、絵画や詩や戯曲のように構築し、聴衆を作品へと近づける。
そんな彼がグラナドスの「ゴイェスカス」を演奏する。18世紀末から19世紀初頭のマドリードへの深い愛を音で描き出したこの曲集は、ゴヤのキャンバスに描かれたような、粋な女マハと伊達男マホが闊歩していた時代を音の絵巻物のように綴った傑作だ。グラナドスはゴヤの絵に魅了され、画家を熱愛し、その精神のとりことなった。ゴヤの絵のロマンティックな側面のみならず、その奥深いところに宿る「悲劇」「宿命」「死」の匂いをかぎとり、絵から得た印象を巧みに音楽に託していった。
これこそ、クンウー・パイクの独壇場の作品ではないだろうか。一つひとつの響きに神経を張り詰め、究極まで磨き上げる。作品の内奥に切り込み、深みを目指す。その演奏から描き出されるのは音の絵巻物である。彼の「ゴイェスカス」に懸ける情熱がほとばしるとき、私たちはゴヤの世界へと運ばれる。その前にラヴェルの技巧と表現が凝縮された「クープランの墓」が置かれている。ここでもパイクの個性的なピアニズムが光る。ラヴェルは音の魔術師であり、透徹した幻想的なピアノの音が特徴。クンウー・パイクが異次元の世界へといざない、音の魔術に酔わせてくれるに違いない。
文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2022年10月号より)
2022.10/27(木)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
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