佐藤しのぶ(ソプラノ)

トスカと私の人生を重ねて歌います

 今年でデビュー30周年を迎える佐藤しのぶが、人生とともに役を深めてきた《トスカ》をリサイタル形式で歌う。共演はメトロポリタン・オペラなど世界的な歌劇場で主役級のパートをこなしてきたテノールの市原多朗と、《ラ・ボエーム》《ドン・カルロス》など大作オペラへの出演が続くバリトンの堀内康雄。輝かしいスター歌手たちが集う、稀有な演奏会となる。
「このプログラムは演奏会形式で《トスカ》の全幕を歌うのではなく、佐藤しのぶという歌手とトスカを重ねて、1人の歌姫のドラマを2部構成で描こうという試みです。ドラマ形式のリサイタルとでもいいましょうか。第1部はオペラの2幕で、トスカがカンタータを歌い、スカルピアが食事をしながら聴いているシーンから始まり、堀内さんがスカルピアの〈テ・デウム〉を歌うところが最後になります。第2部ではトスカがスカルピアを殺害するシーンから、カヴァラドッシと逃亡しようとするところまで一気に歌います。最後のシーンで私は飛び降りませんが、ずっと歌っているので大変です(笑)」
 尊敬する先輩である市原多朗との共演は、佐藤にとっても大きな喜びだと語る。
「本当に夢のようで、私はなんて幸せ者なんだ! と皆に感謝しています。市原さんとは以前にも共演させていただいたことはありますが、こういう形で《トスカ》を一緒に歌えるのは感無量です。しかも大活躍中のバリトン、堀内康雄さんとの共演が実現するなんて! ピアノの森島英子さんも、全員が尊敬する芸術家です」
 ソプラノ歌手にとっては「声が成熟しなければ歌うのは危険」と言われているプッチーニの《トスカ》だが、佐藤はキャリアの初期の段階でこの役を歌うことを決意した。
「27、8年前に歌いましたが、そのときは若くて、トスカがものすごく大きな存在で、こんな大人の女性をどうやって歌えるのか、と思ったものです。憧れが大きすぎて…歌唱や演技もヴェリズモの様式で難しいですしね。海外でもたくさん歌わせていただきました。ペーター・ドヴォルスキーとシェリル・ミルンズと一緒に行ったツアーは、素晴らしい経験でした」
 デビュー30周年はひとつの節目を感じる、と佐藤。
「これまでの30年は、まわりがキャリアを作ってきてくださった。今からは私の生き方が歌い手という“道”を示していくことになると思うのです。色々な幸運に恵まれてきましたが、それに本当に報いるためには、これからの生き方が大事だと感じています」
取材・文:小田島久恵
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年8月号から)

佐藤しのぶ ソプラノ・リサイタル 2014 〜歌に生き 愛に生き〜
9/15(月・祝)15:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 
http://www.japanarts.co.jp