本岩孝之(カウンターテナー)

西洋音楽の語法で日本の歌を素敵に表現したいですね

 カウンターテナーからバスまでをこなす異色の才能をもつ歌手、本岩孝之。多彩な声域を誇る彼は、ソプラノ歌手の姉、本岩潤子との共演で、日本歌曲の魅力も追求している。CD『富士に寄せて〜姉弟で紡ぐ美しい日本の心・2』のリリースを記念して、9月にはコンサートも開催される。器楽奏者では兄弟や姉妹の共演はあるものの、声楽では珍しいと言えるが、ご本人にとっては「こどものころから家でも合唱団でも一緒に歌っていた、ごく自然なこと」なのだそうだ。
 お姉さんとの共演はカウンターテナーで行っている。
「バリトンとソプラノって、おじさんと娘、みたいなシチュエーションが多いでしょ(笑)。それはともかく、何よりも、日本歌曲のもつこまやかな表現には、抑揚や強弱などが幅広くつけられるカウンターテナーがとても合っているんです。バリトンで歌うこともできますが、音楽の細やかさに違いがあります」
 確かに、日本歌曲ならではの柔らかさ、たおやかさという点で、本岩の音色は魅力的。透明感のある美しい女声と、中性的なカウンターテナーの色気の溶け合いは、ほかには無い世界を感じさせる。独特な雰囲気が生まれているのは、複層的な理由があるのだとか。
「僕がバロック音楽で勉強した、フレージング唱法を持ち込んだり、姉が日本歌曲のパイオニア的存在である塚田佳男先生に師事したことで得た歌い方を、僕も取り入れたり。姉との共演は2007年に僕たちの故郷である熊本の八代市でのコンサートが始まりだったんですが、2枚目の録音をしてみて、姉も僕も歌い方が変わったと感じることがあって…。“進化中”なんです、いまも」
 今回のCDで、「埴生の宿」「五木の子守歌」「紅葉」「早春賦」ほか、誰もが知る歌とともに収められたなかで、ひときわ目を引き、そして耳も楽しませてくれるのが「舟歌」。同郷の歌手、八代亜紀さんのヒット曲がピアニストでもある川西宏明によって編曲されている。見事なアレンジとカウンターテナーの響きによって演歌とは異なる不思議な波長で心を揺さぶる。東京でのコンサートでは、これまでに披露されたことがなかったというのは残念というべきだろう。
「演歌が日本人に好まれるというのは、理由があるわけですよね。だから僕は、西洋音楽の枠にとらわれずに、それが融合させられるといいなと思っているんです。西洋音楽の語法を使って日本のものを素敵に表現したいというのが、僕がさまざまなことに取り組んでいることの根っこにあるんです」
 今後の活動にも目が離せなくなってきた。
取材・文:吉羽尋子
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)

本岩孝之&本岩潤子 CD発売記念コンサート
9/14(日)13:30 文京シビックホール(小)
問:及川音楽事務所03-3981-6052
http://oikawa-classic.com

【CD】『富士に寄せて〜姉弟で紡ぐ美しい日本の心・2』
Beltà Record
¥2381+税
YZBL-1037