精鋭3人が極めるシューベルトの世界
郷古廉(ヴァイオリン)、横坂源(チェロ)、北村朋幹(ピアノ)という気鋭の3人が集い、浜離宮朝日ホールでシューベルトのピアノ三重奏曲を奏でる。夏の夕暮れを思わせる「ノットゥルノ(夜想曲)」からはじまり、ピアノ三重奏曲第1番、第2番を並べたプログラム。とくに第2番はベーレンライター版の楽譜を使用し、カットなし、繰り返しもすべて弾く最長バージョンで演奏する点においても注目である。
「シューベルトの第2番は、あらゆるピアノ三重奏曲のなかでどれか1曲を選ぶとしたらこれだと思うほど、僕にとって特別な作品。ベーレンライター版以外の楽譜では、第4楽章の中間部にシューベルト自身が指定した大幅なカットがあるのですが、今回はそこもカットせずに弾きます。この楽章の、どこへ行くのかわからないような転調を聴いていると、次から次へと楽想があふれてきて、筆が追いつかないような勢いで作曲していたのだろうなと想像します。そういう意味で、シューベルトの頭の中をそのまま書きとめたような今回のバージョンは、よりピュアですよね」
そう語る北村にとって、シューベルトはどのような作曲家なのだろうか。
「僕自身は、1回聴いただけで良い曲だなあと思えるのはシューベルトの素晴らしさだと思っていて、10代の頃は素直に大好きで、たくさん弾いていました。けれど世の中におけるシューベルト像は神格化されたもので、“若いうちは触れてはいけないもの”のように捉えられることも。それを知って、自分の抱くイメージとのバランスがとれなくなり、ソロではあまり演奏しなくなった時期もありました。第1番と第2番の三重奏曲にしても、“晩年に書かれた深淵な作品”と言われますが、シューベルトは31歳で亡くなったので年齢的にはまだ若いですよね。僕にとってシューベルト晩年の作品はもっと日常的なもので、歌にあふれた瑞々しい音楽だと捉えています」
ソロとしても活躍し、個性のまったく異なる3人だからこそ、その場で生まれる音楽が面白くなる。
「横坂くんとは10年近く前からの付き合いですが、たくさんの言葉を使ってリハーサルをするタイプで、一つひとつの言葉にファンタジーがあるんです。郷古くんは2018年にこのトリオではじめて演奏したときが初対面でしたが、彼にしかない才能や感性というものを、すぐに感じました。それぞれが外から摘み取ってきたものを自分の中で吸収して、トリオとして集まったときにパッと出し合う、そういったバランスが今はとてもうまくいっているように思います」
取材・文:原典子
(ぶらあぼ2022年8月号より)
浜離宮朝日ホール 開館30周年記念
郷古廉 × 横坂源 × 北村朋幹 シューベルトのピアノ三重奏曲
2022.9/28(水)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/