大塚野乃子は、東邦音大からウィーンのプライナー音楽院に学んだ実力派ヴァイオリニスト。そのデビュー盤は、ベートーヴェンのソナタ第5番「春」を軸に、クライスラーの小品や、その同い年のラヴェルの難曲「ツィガーヌ」などを配した、多層的な選曲に。特に「愛の喜び」「愛の悲しみ」など、ウィーンでの生活を経験した者でなければ体現し得ないような、独特の間合いと空気感を纏う。一方で、誰か巨匠のスタイルを真似るのではなく、独創的な世界観を確立。録音場所の残響すらも味方につけ、一音一音に気持ちを込めてゆく。ピアノの米根弥恵も、真剣さの伝わる好サポートぶりだ。
文:寺西肇
(ぶらあぼ2022年5月号より)
【information】
CD『ウィーンの光と影/大塚野乃子&米根弥恵』
クライスラー:美しきロスマリン、愛の悲しみ、愛の喜び/サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン/エルガー:愛の挨拶/ラヴェル:ツィガーヌ/ベートーヴェン:ピアノとヴァイオリンのためのソナタ第5番「春」
大塚野乃子(ヴァイオリン)
米根弥恵(ピアノ)
ソナーレ・アートオフィス
SONARE1055 ¥2640(税込)