“世界のUCHIDA”、6年ぶりのアルバム。内田光子は「ディアベッリ変奏曲」を、2013年からリサイタルのメインに据え、日本でも驚嘆の名演を聴かせているだけに、待望のディスクの登場だ。ベートーヴェンの変奏技法の集大成たるこの晩年の記念碑的大作は、若手や並の奏者では歯が立たない。その点、彼女はさすがだ。すべての音やフレーズが明確にして細やかで、多様な変奏の一つひとつが生気を放ち、しかも滋味深い。まさに自在の境地! 音楽家としての円熟と、楽曲の生演奏の積み重ねの末に到達し得た至芸というほかない。曲に馴染みがない方にもお薦めの名盤。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年5月号より)
【information】
CD『ベートーヴェン:ディアベッリ変奏曲/内田光子』
ベートーヴェン:アントン・ディアベッリのワルツによる33の変奏曲 op.120
内田光子(ピアノ)
ユニバーサル ミュージック
UCCD-45016 ¥3080(税込)