第163回 リクライニング・コンサート コハーン クラリネット・リサイタル

抒情あふれる美音と圧巻の技巧を堪能する60分

(c)Lakeshore Music

 Hakuju Hallの「リクライニング・コンサート」に、クラリネットの名手コハーン(コハーン・イシュトヴァーン)が登場する。ハンガリー出身、多くの国際コンクールで優勝や入賞を重ね、2013年に日本に拠点を移した。15年には第84回日本音楽コンクールで第1位及び岩谷賞(聴衆賞)を受賞したが、録画放送で観たその本選が衝撃的だった。美しく息の長い歌、繊細なニュアンスに加えて、コハーン自作でみせたテクニックの凄まじいこと! 公開審査の聴衆も思わず大興奮、会場が彼のリサイタル状態になってしまったのである。そのヴィルトゥオーゾぶりと、モーツァルトなどで聴かせる温かい落ち着きは矛盾しない。筋の通った表現のレンジの広さこそ、彼の真骨頂だろう。

 今回はJ.S.バッハの穏やかな楽曲、バルトークやハンガリー民謡など彼の母国の音楽に、コハーン自身の作・編曲作品も聴ける。自作の「ハンガリー幻想曲第1番」は、まさに前述のコンクールで圧倒的なパフォーマンスを見せつけた楽曲だ。編曲は「ラプソディ・イン・ブルー」で、これまた彼の抒情的な美音から圧巻の技巧まで、エンターテイナーぶりを楽しめるに違いない。

 実はこの公演、昨年12月9日の水曜日に予定されていたがコロナ禍で実現できず、ちょうど1年後の同じ曜日に同じ演目、同じ共演者(ピアノの榎本詩帆)で再現されるもの。この2年近く、音楽家もホールも大変な思いを強いられてきた。その思いを受け止めつつ、心地よいシートと音響に包まれる60分をリラックスして楽しみたい。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2021年12月号より)

2021.12/8(水)15:00 19:30 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://www.hakujuhall.jp