INTERVIEW 川瀬賢太郎(指揮)& 辻本玲(チェロ)

八王子ゆかりの二人の初共演が12月に実現!

 東京交響楽団が2016年から毎年、J:COMホール八王子を舞台に開催している「八王子定期演奏会」。12月23日公演の第8回は、クラシック界を牽引する実力派マエストロ、川瀬賢太郎と、ソリスト、N響首席、室内楽奏者として大活躍の辻本玲が登場、楽しみな共演が実現する。それぞれに、お互いの印象や八王子との縁、東京交響楽団のこと、プログラムについて話を聞いた。

取材・文:長谷川京介

川瀬賢太郎 KENTARO KAWASE

「新世界より」は実は指揮者にとって難しい作品です

川瀬賢太郎 (c)Yoshinori Kurosawa

 指揮者への夢を持ちながら、高校生活を八王子で過ごした川瀬賢太郎。思い出の地では、これまでにも東響のステージに登場している。今年12月のステージに、スメタナ、ドヴォルザークの作品を選んだ。

── 八王子高等学校で学ばれ、八王子とはご縁がありますね。
 国分寺から学校のある西八王子まで通いました。芸術コースでクラリネットを専攻していましたが、一方で幼稚園の頃からの夢だった指揮者を目指し、汐澤安彦先生に指揮を教わりました。

── ソリストの辻本玲さんにはどんな印象をお持ちですか。
 日本フィルを指揮した時、オーケストラのメンバーとして接したことはありますが、ソリストとしては初めてです。友人のチェリストから評判も聞いていて、ぜひ一緒に演奏したいと思っていました。第一印象は「男気がある」(笑)。N響の首席奏者としてオーケストラを牽引されており、演奏が力強くダイナミックで、共演がすごく楽しみです。

── 東京交響楽団を指揮することは多いですか。
 在京のオーケストラの中では多いですね。2017年の八王子市市制100周年記念事業のオペラ《アイーダ》(セミ・ステージ形式)も東響さんでした。
 オペラは歌手、合唱、演出、舞台関係者など多くの人と時間をかけて創り上げていくので、シンフォニーと違ってオーケストラとより親密になり、自然に気持ちが通い合うようになりますね。

── プログラムはチェコ音楽の名曲ですね。
 スメタナ、ドヴォルザークというチェコを代表する作曲家の作品であり、王道の名曲ですね。どなたにも楽しんでいただけると思います。

川瀬賢太郎 (c)Yoshinori Kurosawa

── 川瀬さんにとって、ドヴォルザーク「チェロ協奏曲」はどんな曲でしょうか? おすすめの聴きどころをお聞かせください。
 この曲はシンフォニックに書かれていて、チェロの独奏のみならずオーケストラの魅力もたっぷりと味わえます。チェロとオーケストラが一体となるよう緻密に構成されている作品なので、初共演となる辻本さんとそうした点に気をつけながら指揮したいと思っています。

── 「新世界より」は何度も振られていると思いますが、どのような印象をお持ちですか?
 皆様もよくご存じで、指揮する機会もとても多いのですが、逆にマンネリに陥らないように注意しなければなりません。スコアをよく読むとわかりますが、色彩の移り変わりや繊細な表情の変化など、とても細かく書かれており、実は指揮者にとって難しい作品です。
 「新世界より」は東京音楽大学の卒業試験で全曲指揮した作品であり、青春時代を過ごした八王子での懐かしい思い出も重なります。神奈川フィルとCDを録音しましたが、その時は初めて接するようなフレッシュな気持ちで作品と向き合いました。今回も新たな気持ちでスコアを読むつもりです。

── 「新世界より」の聴きどころをお教えください。
 ドヴォルザークの故郷を思う気持ちが込められた作品で、「家路のテーマ」で有名な第2楽章は、さきほどお話しした曲想の移り変わり、繊細な表情など、ドヴォルザークの音楽の特長がよく表れています。
 彼は鉄道オタクでしたから、第4楽章の力強い序奏は汽車が徐々にスピードを増し走り出す光景からインスピレーションを得たのかもしれません。鉄道好きな方はぜひご注目ください!
 コロナ禍の今、新しい世界へ向かう勇気を与えてくれる「新世界より」を演奏し、お客様と感動を分かち合うことは、大きな意味があると思います。

辻本 玲 REI TSUJIMOTO

ドヴォルザークはリズムのキャラクターが刻々と変わる難しい作品です

辻本 玲

 ドヴォルザークのチェロ協奏曲でソリストを務める辻本は、2009年に「第2回ガスパール・カサド国際チェロ・コンクール in 八王子」(注)で第3位入賞(日本人最高位)、併せて「日本人作品最優秀演奏賞」も受賞した。彼にとっても八王子はキャリアの節目となった土地だ。

── コンクールに入賞されて、八王子とご縁ができましたね。
 コンクールの時、はじめて八王子を訪れました。ちょうどフィンランド留学から日本に帰る頃で、留学の集大成ということでコンクールを受けました。留学の途中からコンクールに向けて時間をかけて準備しました。

(注)スペインの偉大なチェリスト、ガスパール・カサドの名を冠したコンクールは、妻でピアニストの原智恵子が1969年、イタリア・フィレンツェで創設。しかし、1990年、原は体調を崩して帰国、日本でのコンクール復活を試みたが、2001年逝去。遺志を受け継いだ八王子の市民有志が準備会を立ち上げ、2006年に開催した。

── さて、今回共演する川瀬賢太郎さんの最初の印象はいかがでしたか。
 日本フィル時代は、指揮者とオーケストラの関係でしたので、直接お話をする機会はなかったのですが、若々しい指揮で音楽に対する誠実さを感じました。確かなテクニックを持っており、若くして自分の音楽を確立されている指揮者だと思います。

── 辻本さんはこれまで東京交響楽団と共演されたことはありますか。
 2009年に秋山和慶先生の指揮で、チャイコフスキーの「ロココの主題による変奏曲」を共演しました。切れ味のいい演奏が印象的でした。

── チェリストにとっては、最も重要なレパートリーと言えるドヴォルザーク「チェロ協奏曲」ですが、辻本さんにとってどんな曲でしょうか?
 オーケストラに入ってから、ソリストの時よりも作品の細部や構造について考えることが増えました。このコンチェルトは、ソリストもオーケストラの一員として、両者が一体となって音楽を創り上げていく曲ですね。チェリストである自分は、そこに魅力を感じています。

── 演奏にあたって難しいところはありますか?
 「新世界より」もそうですが、リズムのモチーフが数小節で変わります。普通の協奏曲ならワンセクション同じような雰囲気が続いて次の段落に行きますが、ドヴォルザークはリズムのキャラクターが刻々と変わるので、指揮者にとってもソリストにも難しい曲です。
 ちなみに、「新世界より」は日本フィル時代に山ほど弾きました(笑)。今回のプログラム1曲目、スメタナ「売られた花嫁」序曲はチェロがけっこう難しくて、オーディションによく出ますね。オケで弾いたことがないので、聴くのが楽しみです!

東京交響楽団 第8回八王子定期演奏会
2021.12/23(木)14:00  J:COMホール八王子(開場13:15)


♪スメタナ:歌劇《売られた花嫁》序曲
♪ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 op.104
♪ドヴォルザーク:交響曲第9番 ホ短調 op.95「新世界より」

チケット:
(1) いちょうホール/南大沢文化会館/学園都市センター/J:COMホール八王子
電話予約:042-621-3005(9:00~17:00)
インターネット予約:https://www.hachiojibunka.or.jp/ticket_reserve/
(2) チケットぴあ(Pコード:202-950) ※一般・ユース券のみ取り扱い
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2123093&rlsCd=001&lotRlsCd
(3) イープラス(e+) ※一般・ユース券のみ取り扱い
https://eplus.jp/sf/detail/3474830001-P0030001P021001?P1=1221
※インターネット予約の場合は事前に登録が必要です。
※窓口で完売の際は、ご予約いただけません。
問 八王子市学園都市文化ふれあい財団 042-621-3005