布谷史人(マリンバ)

マリンバで“歌う”ことを追求します

©Claudia Hansen
©Claudia Hansen

 アメリカとドイツで学び、国際的な活躍を続けるマリンビスト、布谷史人。昨年はピアソラの作品集『ピアソラ・オン・マリンバ』、クラシックの名曲による編曲作品集『クラシックス・オン・マリンバ』を独・Oehms Classicsより同時リリースし、この2月にはこれらのレパートリーによるリサイタルを開催する。
「ピアソラの作品を演奏するようになったのは、今度のリサイタルでも取り上げる『タンガータ組曲』と出会ったからです。憑りつかれたように聴いているうち、とてもストレートな感情が自分の中に入ってきていることに気付き、また自分の心境を音楽で表してくれているような感覚に陥ったのです。ピアソラとの出会いはマリンバでの感情表現を追求するきっかけになりました」
 編曲にあたっては「マリンバで演奏することでその曲の魅力が引き出せるかどうか」をまず考えるという。原曲の持つ魅力からかけ離れてしまう場合には編曲は行わないが、編曲すると決めた際には強い情熱をもって行う。ヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ・ピースであるワックスマンの「カルメン・ファンタジー」についてはこんなエピソードも語ってくれた。
「楽譜の版権を所有しているワックスマンのご家族に編曲の許可を求めたところ、新規にマリンバ編曲版が作られることになったのです。そこで、僭越ながらマリンバ奏者の立場から意見を出させていただきました。ただ、それでも最後の速いパッセージが続くところは未だにとても難しいですし、それを克服するために長い間反復練習したり、慣れるために何回も場数を踏んだりしてきました。今回のリサイタルでは、この作品が奏者に要求する集中力と、奏者とききての間にある緊張感を楽しんでいただければと思います」
 様々な楽器のために書かれた作品を編曲し、演奏することを通して、自身のマリンバの奏法や歌い方を見直すようになったという布谷。“歌う”ことを追求した演奏により、これからも進化を続けていく。
「どんな曲でも、“歌う”ことを意識してマリンバを演奏することは簡単なことではありません。正しい音を弾くことに意識がいき過ぎると味気ない演奏になりますし、歌うことばかりに気を配っていると、力が入りすぎたり、正しい音を演奏することがおろそかになりがちです。しかし、こうした取り組みを続けているうちに、マリンバのために書かれた無調の作品からも以前は気が付かなかった“歌”や表現を発見できるようになりましたし、自分の中で音楽の幅が広がるのを感じています。これからも音楽を創り上げる過程を楽しみながら演奏を続けていきたいです」
取材・文:長井進之介
(ぶらあぼ 2017年2月号から)

CDリリース記念 布谷史人 マリンバ・リサイタル
2/18(土)18:30 王子ホール
問:アスペン03-5467-0081
http://www.fumitonunoya.com/

CD
『ピアソラ・オン・マリンバ』
OC-1851

 

 

 

 

『クラシックス・オン・マリンバ』
OC-1859
2点ともOehms Classics
¥オープン/輸入盤