サントリー芸術財団 サマーフェスティバル 2016

多彩な現代音楽シーンを伝える真夏の8日間

 現代音楽の祭典サントリー・サマーフェスティバルといえば、いまや夏の終わりの風物詩。注目は何といっても2013年からスタートしたザ・プロデューサー・シリーズだろう。特定の企画立案者が、自らの審美眼や問題意識に基づいて選曲する。演奏の“いかに”だけでなく、チョイスの“なぜ”という点からも現代という時代の相を読み解けるはずだ。
 今年は形式も奏法も多様な現代音楽の演奏を、最先端で牽引してきた二人がプロデューサーに登場する。まずはギタリストにしてアンサンブル・ノマドの音楽監督・佐藤紀雄が、どこの流派にも属さないワン・アンド・オンリーな作曲家にスポットを当てる『単独者たちの王国』と題した2公演を企画。『めぐりあう声』(8/22)は、ノマドがアルバムまで作って傾倒するメキシコの作曲家エベルト・バスケスのヴィオラ協奏曲「デジャルダン/デ・プレ」(ソロ:甲斐史子)から。後半はニュージーランドの現代音楽シーンをリードしてきたジャック・ボディの最後の作「死と願望の歌とダンス」で、波多野睦美をはじめとする3人の歌手に加え、森山開次がダンスで参加する“総力戦”だ。『めぐりあう響き』(8/27)では、武満作品「群島S.」など4作品でノマドが大ホールいっぱいにエネルギーを発散させる。
 二人目は東京シンフォニエッタ音楽監督として同団を率いる板倉康明。『耳の愉しみ』と題した2公演を企画した。『スバラシイ・演奏』(8/25)ではブーレーズ、メシアン、カサブランカスらの作品に加え、アイディアがいっぱいに詰まったリゲティの「ヴァイオリン協奏曲」を神尾真由子が演奏するのに大注目だ。400席弱のブルーローズに、凄まじいパワーが渦巻くことだろう。『ウツクシイ・音楽』(8/29)ではブルーノ・マントヴァーニの委嘱新作の初演、微分音・倍音の魔術師ゲオルク・ハースの作品の後に、小菅優がリンドベルイ「ピアノ協奏曲第2番」を披露。一昨年、ブロンフマンがNYフィルとの来日で壮絶な演奏を聴かせたが、日本人勢のチャレンジ(管弦楽:都響)にも期待したい。
 国際作曲委嘱シリーズは、昨年東京オペラシティ『コンポージアム』が特集し、ようやく日本でもルネサンスを迎えた感のあるカイヤ・サーリアホ。室内楽4作品を並べた公演(8/24)に続き、ハープ界の貴公子グザヴィエ・ドゥ・メストレがソリストとして登場し、サントリーホールが共同委嘱した新作「トランス」の世界初演を行う(8/30)。他に2006年作の「オリオン」の日本初演や、同郷のシベリウス「交響曲第7番」も聴ける。
 恒例の芥川作曲賞選考演奏会(8/28)の他、今年は武満徹没後20周年を記念して、サントリーホールが委嘱した大作「ジェモー」を譚盾(タン・ドゥン)が指揮する(8/26)。注目公演てんこ盛り。夏バテなんて言ってられない!
文:江藤光紀
(ぶらあぼ 2016年8月号から)

8/22(月)〜8/30(火) サントリーホール
問:東京コンサーツ03-3200-9755
http://suntory.jp/summer