アンサンブル・ノマド 第50回定期演奏会 再生へ vol.1

自由な感性がつかんでくるバランス感覚

(C)Higashi Akitoshi
(C)Higashi Akitoshi

 現代音楽の世界では三管編成とか弦楽四重奏といった定型ではなく、さまざまな編成で自由な表現を追求するという傾向が1970年代以降、世界的に広まった。特殊奏法にも対応できる実力をもった奏者たちが曲によってアンサンブルを変え、時には作曲家と議論しながら新しい表現を作る。東京でも90年代以降、いくつかの団体がこの新しい領野への航海を始めた。
 ギタリスト佐藤紀雄を中心に97年に結成されたアンサンブル・ノマドは、なかでも個性派のソリストを集め、好事家をうならせるコアな企画で人気を博してきた。ノマドの演奏会に行くと熱心なファンがついているのを感じるが、テーマに演奏者自身の好奇心を反映させつつ、聴き手を飽きさせないエンターテインメント性もしっかり盛り込まれている。一つところに定住しないノマド(遊牧民)の、自由な感性がつかんでくるこのバランス感覚こそが活動の肝になっているように思う。
 50回目の定期演奏会は一区切りの記念に、過去のコンサートの中から「もう一度聴きたい」曲を集めた。人気の高いライヒ、難度の高い作品で知られるファーニホウに交じって、日常生活の身振りから音楽を生成させるケージ「居間の音楽」、演奏者が道化師の格好でパフォーマンスするシュトックハウゼン「小さな道化師」など、音楽の概念を覆す痛快作が混じっている。ノマド編のサン=サーンス「動物の謝肉祭」では、メンバーそれぞれが個性的な珍獣に化けてくれそうだ。なお、タイトルの『再生へ』は、音楽の潜在力にカタストロフィからの復興の願いを込めているという。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2014年5月号から)

★5月31日(土)・東京オペラシティ リサイタルホール
問:キーノート0422-44-1165
http://www.ensemble-nomad.com