柴田智子(ソプラノ)

次代へ伝えたいフォルクローレの名曲たち──フィンジ〈武器よさらば〉を中心に

 クラシカル・クロスオーヴァー歌手の草分け的存在であり、ジャンルの垣根を越えて“うた”に新たな生命を吹き込むソプラノ、柴田智子。ニューヨークを本拠地としてアメリカ音楽の魅力を伝える第一人者としても知られる彼女だが、6月のソロ・コンサートでは「ソプラノ FOLKLORE(フォルクローレ)」をテーマに掲げ、イギリス音楽を中心としたプログラムを組んだ。

「“民族音楽”と訳されることも多いですが、フォルクローレには“伝承”という意味もあります。ジェラルド・フィンジ(1901-56)の知られざる名曲〈武器よさらば〉を軸に、次代へと伝えたい作品をご紹介します」

 第1部は今回のメインテーマである英国。生涯に100曲以上の歌曲を残したロジャー・クィルター(1877-1953)の作品からは、民謡をもとにした〈The Fuchsia Tree〉(つりうきの木)や、エリザベス王朝時代の抒情詩による〈Weep You No More〉(もう泣かないで)、そしてシェイクスピア作の〈O Mistress Mine〉(おお私の恋人)など、それぞれ趣の異なるテキストも魅力的だ。

「日本の声楽科では最初にイタリア古典歌曲を教わりますが、ジュリアード音楽院ではヘンデルと共にこのクィルターを学ぶことから始まります。旋律がとても美しいのです」

 王立音楽院で職に就くも都会の喧騒を厭い、郊外でリンゴ農家を営んだという異色の経歴を持つフィンジ。彼の序奏とアリアからなる〈Farewell to Arms〉(武器よさらば)は、農園を耕す道具が武器になり、戦争が終わるとまた道具に戻るという過程と、兵士を経験した男性の生涯を描いた内面性溢れる作品。
「少し内省的ですが、現代に必要な深いメッセージを感じます。実はフィンジの家まで訪ねたこともあるのです」

 第1部のラストをポール・マッカートニーの「リバープール・オラトリオ」で締め、第2部は、古い民謡をアメリカ歌曲へと高めたコープランドや、ジャズとも馴染みが深いガーシュウィンのナンバーで幕開け。そして、舞台は米国から日本へ。
「現代日本の作曲家の中で、特にお気に入りの木下牧子さんの作品や、さくらももこさんが書いた〈ぜんぶ〉(相澤直人)、若い世代に人気の楽曲〈手紙〜愛するあなたへ〜〉(藤田麻衣子)と、クラシックのソプラノにしては大胆な選曲になりました。こういう世界も大切にしたいのです。そして、自作曲である〈サイレントソング〉は亡くなった母へ伝えたかった私の気持ちを歌にしました」

 共演ピアニストは偶然にも同じ名字を持つ柴田かんな。柴田のピアノ・ソロにはビリー・ジョエルが書いたクラシック作品を薦めるあたりも彼女らしい。5月には地元・自由が丘恒例の「Sweets Festa」“音楽大使”に就任。最終日(5/6)に出演予定とか…。こちらも楽しみだ。
取材・文:東端哲也
(ぶらあぼ2019年5月号より)

柴田智子 SOPRANO FOLKLORE
2019.6/21(金)19:00 豊洲シビックセンターホール
問:T.S.P.I. 03-3723-1723 
http://www.tomokoshibata.com/