ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団

時代を証言する20世紀の傑作2編


 ショスタコーヴィチとブリテン。共に時代の深淵を覗き込み、その闇を後世に伝える傑作を数多く遺した、20世紀のソヴィエトとイギリスを代表する巨人である。実際に彼らは親交を持ち、作品を献呈しあうほど互いに尊敬しあっていた。

 5月の東京交響楽団の定期は、そのふたりの聴きごたえある作品のカップリング。1937年、スターリン体制の大粛清の真っ只中という時期に、自らの芸術家人生を賭して書かれたショスタコーヴィチの交響曲第5番。39年、第二次世界大戦開戦の時期に書かれ、当時の複雑な感情が反映されたというブリテンのヴァイオリン協奏曲。いずれも当時の世界的な「恐怖」を背景とする名作であり、意義深い組み合わせだ。この秀逸なプログラムはもちろん、東響音楽監督ジョナサン・ノットの思いが反映されたもの。ノット得意の20世紀ものを、時代の証言とも言える作品で体験できるのは嬉しい。

 ブリテンのソロは世界的名手のダニエル・ホープ。バロックから現代作品まで、自在にしてユニークな表現で独自の存在感を確立している。彼は英国王立音楽大学で学んでおり、イギリスの名匠ノットとのブリテンとなれば、本作の理想的な演奏が体験できそうだ。また、ノットと東響によるロシアものといえば、昨年11月のラフマニノフ第2番の圧倒的な名演奏の記憶が鮮烈に残っている。今回のショスタコーヴィチも、作品の光と影を浮かび上がらせる理知的なアプローチと、それをも忘れさせるほどの興奮を覚えるような、充実の名演への期待が高まる。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2019年5月号より)

第670回 定期演奏会
2019.5/25(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
http://tokyosymphony.jp/

第113回 新潟定期演奏会
2019.5/26(日)17:00 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
問:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル025-224-5521 
https://www.ryutopia.or.jp/