熱き思いが、全篇から迸る。ロシア出身のバリトン、ヴィタリ・ユシュマノフは美空ひばりを聴き、「日本のうた」の虜に。日本歌曲の第一人者・塚田佳男の薫陶を受け、表現に磨きをかけてきた。その成果が、当録音。塚田の詩情豊かなピアノを伴い、「朧月夜」「荒城の月」などスタンダードから武満徹による大衆歌、オリジナル曲までが、包容力ある歌声で、丁寧に歌いこなされてゆく。彼の日本語は、外国人特有の母音のくぐもりがほぼないどころか、現代には変質してしまった発音より、むしろ正統的。日本の言葉と旋律は、これほど胸に染みるのか。日本人の我々が、改めて教えられる。
文:笹田和人
(ぶらあぼ2018年11月号より)
【information】
CD『「ありがとう」を風にのせて―日本名歌集― /ヴィタリ・ユシュマノフ&塚田佳男」
中山晋平:鉾をおさめて/大中寅二:椰子の実/瀧廉太郎:納涼、荒城の月/山田耕筰:この道/文部省唱歌:我は海の子/岡野貞一:朧月夜/平井康三郎:平城山/武満徹:小さな空/小林秀雄:落葉松/いずみたく:見上げてごらん夜の星を/歳森今日子:ありがとう 他
ヴィタリ・ユシュマノフ(バリトン)
塚田佳男(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCL-00682 ¥3000+税