9月21日に開幕を控えた17日、バイエルン国立歌劇場日本公演の記者会見が開催された。出席者は劇場総裁のニコラウス・バッハラー、音楽総監督キリル・ペトレンコ、そして《タンホイザー》の出演主要歌手、クラウス・フロリアン・フォークト、アンネッテ・ダッシュ、エレーナ・パンクラトヴァ、マティアス・ゲルネ。
(2017.9.17 東京文化会館 Text:H.Yoshiba Photo:M.Terashi & J.Otsuka/TokyoMDE)
まずはじめに、バッハラー総裁から日本公演への思いが語られる。
「6年ぶりのバイエルン国立歌劇場の日本公演が開催できることを感謝しています。バイエルン国立歌劇場の日本公演は1974年の第一回から70年以上という歴史をもつものなのです。また、前回の2011年は、日本が大震災に見舞われた大変なときでした。しかし、そうしたなかでも日本の方々はとても理性的に、しかも集中して、私たちの音楽に感動してくれるのを目の当たりにしました。音楽というものは人間にポジティブな力を与えるものなのだと、あらためて私たちは日本の皆さんと感じることができました。この思い出を、はじめに、皆さんにお話したいと思いました」
海外歌劇場日本公演の記者会見は、歌手や指揮者が揃うということで注目を集めるものだが、今回集まった100名近い記者のお目当ては、同劇場の音楽総監督キリル・ペトレンコに集中したことは否めない。ペトレンコはインタビュー取材を一切受けないからだ。バッハラー総裁は「これは日本だけではなく、世界中のどこでものことなので理解してほしい。この会見では話してくれるので」と、ペトレンコにマイクを渡した。
「初めて日本に来られたことを、とても嬉しく思っています。今日で4日目となりますが、街も人も素晴らしいし、食事もおいしい。今回はモーツァルトとワーグナー、それにコンサートのマーラーも加え、バイエルン国立歌劇場の柱としているもののすべてを聴いてもらえる機会になりました。伝統あるバイエルン国立歌劇場の日本公演を、私が音楽総監督を務めている間に行えることも、とても光栄なことだと感じています」とペトレンコはにこやかに挨拶。
指揮者としての信条は?という質問には「特別なものはない。できるかぎりリハーサルをすることだけ」とシンプルに答え、さらに指揮者の役割ということについて「大切にしていることは、リハーサルのときにオーケストラと一体になることです。本番のときに指揮者がやることが少ない方が良いのです」とも語った。
極端に録音が少ないことについては、録音よりライブが重要だと思っているからだそうで、その理由は「ライブには、その音楽の生き生きとしたものがある。そのとき、その場にしかないものが大切だと思っています。録音という、ある意味で確実過ぎる状態であるべきものではないと思うのです」
さて、いよいよ誰も知りたいこと=何故インタビューを受けないのか?という質問。おそらく想定していたのだろう、一瞬苦笑いを見せた後、「理由はいくつかあるのですが、一番大切だと考えるのは、自分の仕事について語ることはしない方が良いと思っていることです。指揮者の仕事は指揮をすること、音楽で語るということですから。できるだけ秘密があった方が良いと思ってもいますし」。
秘密の件はともかく、「指揮者は音楽で語るもの」というのは至極納得のいく答えではある。が、記者魂のなせる技? 面白いのはここからだ。自分で話さないのなら、周りからはどうだろう?というわけで、歌手に質問が飛ぶ。
「マエストロは自分の信条をリハーサルだと言いました。リハーサルには2種類あって、一つは誰のためにもならないもの。ペトレンコのリハーサルはそれではない、学ぶことがたくさんあるリハーサルです」とフォークト。ゲルネは「これまで何度もヴォルフラム役を歌っていますが、これほど楽譜を正確に読み込んでいる人はいないと思います」と続け、さらにパンクラトヴァが「彼のリハーサルでは、1分たりとも無駄だと思うことがありません」と語る。この間、当の本人は少し赤くなった顔を手で覆うようにして・・・。指揮台に立つ堂々たる姿とは異なる、非常にシャイな性格であることが伝わった瞬間だ。
実はこの会見が行われたのはコンサートの終演直後。翌日には《タンホイザー》のゲネプロが予定されているということで、歌手たちからの言葉はちょっと少なめだったが会見は終了となり、全員並んでのフォトセッションへ。なごやかな笑顔で並ぶ彼らには、互いを認め合った信頼の厚さがあふれている。この雰囲気は先ほど聴いたばかりのコンサートでのオーケストラとペトレンコの間にも感じられた。歌手、オーケストラのすべてが、尊敬する指揮者とともにつくり出す《タンホイザー》の公演、ますます楽しみになってきた。
●クラウス・フロリアン・フォークト
タンホイザー役を、しかもバイエルン国立歌劇場の日本公演で歌えることをとても嬉しく思っています。バイエルン国立歌劇場の伝統の一端を担えるのは栄誉なことなのです。私のタンホイザー・デビューを、日本の皆さまに楽しんでいただけるよう、願っています。
●アンネッテ・ダッシュ
日本でエリーザベト役を歌うのは初めてです。前回はとても楽しい役でした。今までとはまったく違うキャラクターの役での来日となり、とても楽しみにしています。
●エレーナ・パンクラトヴァ
今回で来日は3回目になります。日本の皆さんは音楽をとても深く受けとめてくれることを、いつも感じるのです。また、終演後はたくさんの方が待っていてくださることも、とても嬉しく感謝しています。素晴らしい日本の皆さまに、私も新しい役で楽しんでいただけるよう、つとめます。
●マティアス・ゲルネ
今回の新しい《タンホイザー》のヴォルフラム役を歌うのは日本が初めての機会となるので、とても楽しみにしています。日本の皆さんはとても真剣に音楽に向き合い、そして感動してくれます。一緒に楽しい時間を過ごせることを楽しみにしています。
【公演日程】
バイエルン国立歌劇場日本公演
《タンホイザー》
作曲:R.ワーグナー
演出:ロメオ・カステルッチ
指揮:キリル・ペトレンコ
9月21日(木) 3:00p.m.
9月25日(月) 3:00p.m.
9月28日(木) 3:00p.m.
会場:NHKホール
■予定される主な出演
領主ヘルマン:ゲオルク・ゼッペンフェルト
タンホイザー:クラウス・フロリアン・フォークト
ウォルフラム:マティアス・ゲルネ
エリーザベト:アンネッテ・ダッシュ
ヴェーヌス:エレーナ・パンクラトヴァ
《魔笛》
作曲:W.A.モーツァルト
演出:アウグスト・エヴァーディング
指揮:アッシャー・フィッシュ
9月23日(土・祝) 3:00p.m.
9月24日(日) 3:00p.m.
9月27日(水) 6:00p.m.
9月29日(金) 3:00p.m.
会場:東京文化会館
■予定される主な出演
ザラストロ:マッティ・サルミネン
タミーノ:ダニエル・ベーレ
夜の女王:ブレンダ・ラエ
パミーナ:ハンナ=エリザベス・ミュラー
パパゲーノ:ミヒャエル・ナジ
パパゲーナ:エルザ・ベノワ
※表記の出演者は2017年1月20日現在の予定です。
http://www.bayerische2017.jp/