クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ)

こだわりの名手が到達したシューベルトの世界

©KASSKARA/DG
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 クリスチャン・ツィメルマンのリサイタルほど、濃密な時間が流れるピアノ・コンサートはほかにない。全ての音が意味を発しながら奏され、隙のない音楽が精緻・精妙・堅牢に構築されていく。畢竟聴き手は息を殺してその演奏に耳目を集中させ続けることになる。しかもそこには豊かな詩情や熱気が奇跡のように同居している。したがって聴き終えると深い充足感に満たされ、また再びその得難い時間を求めたくなる。
 1956年ポーランド生まれの彼が、現代最高のピアニストの一人であるのは言うまでもない。75年ショパン・コンクール優勝、カラヤン、バーンスタインらとの共演の経歴や、自身が調整した楽器を持ち込むこだわりも、もはや記載不要だろう。彼は近年、拠点のひとつとする日本で、2009、10、12、13年のリサイタルのほか、様々なコラボを披露している。我々はその幸運をただ享受すればいいのだ。
 毎回意味深いプログラムを用意する彼は、このほど「オール・シューベルト・プログラム」で日本ツアーを行う。演目は、7つの軽快な変奏曲、ソナタ第20番、第21番。ポーランドで発見された13歳時の“幻の変奏曲”も貴重だが、何より最晩年のソナタ2曲が大注目だ。前回弾いたベートーヴェン最後のソナタ(第30〜32番)の続編として、それらとの共通性または対照性が露にされる可能性もあるし、何より、前記の特質をもつ彼が、情緒纏綿たる抒情的ソナタにどうアプローチし、いかなる世界を創出するのか? 非常に興味をそそる。何れにせよ、かけがえのない時間を過ごせることだけは間違いない。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

2016.1/10(日)17:00 横浜みなとみらいホール
2016.1/13(水)19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp
※全国公演の情報は上記ウェブサイトでご確認ください。