デビュー25周年に奏でる、心を揺さぶられた音楽
小林美恵は、1990年にロン=ティボー国際コンクールで日本人初の優勝後、屈指の実力派ヴァイオリニストとして活躍を続け、今年でデビュー25周年を迎えた。「室内楽が本当に好きで、共演者にも恵まれてきました。でもまだまだこれから」と語る彼女。そこで今「山ほどある弾いていない曲や弾く機会の少ない曲」を中心とした、全5回の記念リサイタル・シリーズを、今年から来年にかけて開催している。
今年10月の第2回は、ショーソンの「ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のためのコンセール」が「特に弾きたいと望んでいた曲」。彼女は今回初めてヴァイオリン・ソロ・パートを弾き、2010年ジュネーヴ国際コンクール優勝の俊英ピアニスト、萩原麻未と、日本の弦楽四重奏団の代表格であるクァルテット・エクセルシオが共演する。
「5本の弦楽器の豊かな響きにピアノが加わった芳醇なる世界に引き込まれて離れられない作品。20年ほど前に弦楽四重奏のパートを弾いた際、心を鷲掴みにされました。約43分の長い曲ですが、せわしない今の時代、会場に身を置いて豊潤な音にどっぷり浸るのも、意味があると思います」
今回は他もフランスの作品。まずプーランクのソナタは、萩原麻未あっての選曲だという。
「萩原さんとは、私の20周年記念リサイタルの日に彼女のジュネーヴでの優勝が発表されたという、嬉しい縁があるんです。2011年の初共演の際、最初の1音を聴いたとたんに幸せな気持ちになり、以後年1〜2回共演しています。ですから、まずショーソンのピアノは彼女に弾いてもらいたいなと。さらにプーランクは、以前共演した際に『こんな可能性があるのか!』と驚かされた曲。あの素晴らしい音をもう一度聴きたいと思って入れました」
もう1曲、フォーレのソナタ第1番は萩原の希望を取り入れた。
「今回の公演に『音の夢』という題を付けたのですが、若い時に書かれたこの曲は、まさしく溢れんばかりの夢が、一筆書きのように流れていきます。しかも新しさのある作品で、多くの作曲家に影響を与えた点もポイントです。またピアノの色が一瞬ごとに変わっていくのも妙味。萩原さんも『今弾きたい3指に入る曲』だと言っていましたので、とても楽しみです」
なお室内楽の殿堂たる東京文化会館小ホールでの自主企画のリサイタルは、「大学の卒業日に開催した公演以来」との由。これまた25周年に相応しい。
この後、第3回は「バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全6曲を1公演で」弾き、第4回は「フォーレのソナタ第2番を軸にしたデュオ」、第5回は「協奏曲」が予定されており、「いずれはベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲を」と希望も膨らむ。でもまずは、興味津々のフランス・プログラムをぜひ聴いてみたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年10月号から)
小林美恵 デビュー25周年記念リサイタル・シリーズ 2015-2016 第2回「音の夢」
10/16(金)19:00 東京文化会館(小)
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
http://www.japanarts.co.jp