
右:ヘルムート・ドイチュ ©Shirley Suarez
2020年に第27回ブラームス国際コンクール声楽部門で日本人初優勝を果たし注目を集めたソプラノの森野美咲。以後、ヨーロッパを拠点に、オペラや歌曲など、多彩なレパートリーで活躍。その豊かに響く声と美しい言葉さばき、洗練された舞台姿で人気を集めている。日本でも今年の9月に藤原歌劇団《ラ・トラヴィアータ》でヴィオレッタを演じ、改めてその実力を示したばかりだ。
今回のリサイタルで聞かせてくれるのはオール・リート(ドイツ歌曲)・プログラム。ウィーン国立音楽大学修士課程のリート・オラトリオ科を修了し、コンクールでも輝かしい成績を収めていることから見てもわかるように、彼女にとってリートはオペラとともに重要な柱だ。「花、乙女、愛」をテーマに、R.シュトラウスの甘美な作風が存分に発揮された〈献呈〉や〈万霊節〉、可憐な雰囲気に満ちた歌曲集「乙女の花」で幕開け。それに続くのは20世紀ドイツの作曲家、ヘルマン・ロイターの「オフィーリアの3つの歌」だ。詩の世界を鮮やかに浮かび上がらせる彼の手腕が発揮され、オフィーリアの内面が見事に表れた作品である。そしてピアノ編曲でもおなじみのリスト「愛の夢」はオペラ・アリアにも通じるドラマ性をもつ楽曲。森野の歌唱の幅広さを存分に楽しめることだろう。
“最小の室内楽”であるリートにおいて重要なピアノを演奏するのはこの分野における第一人者、ヘルムート・ドイチュ。彼の作り出す情景や空気感に乗って、森野が珠玉の名曲をどのように届けてくれるか期待したい。
文:長井進之介
(ぶらあぼ2025年11月号より)
森野美咲(ソプラノ) & ヘルムート・ドイチュ(ピアノ) 至高のドイツ歌曲
2025.11/21(金)19:00 第一生命ホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp

長井進之介 Shinnosuke Nagai
国立音楽大学大学院修士課程器楽専攻(伴奏)修了を経て、同大学院博士後期課程音楽学領域単位取得。在学中、カールスルーエ音楽大学に交換留学。アンサンブルを中心にコンサートやレコーディングを行っており、2007年度〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞受賞(史上最年少)を機に音楽ライターとして活動を開始。現在、群馬大学共同教育学部音楽教育講座非常勤講師、国立音楽大学大学院伴奏助手、インターネットラジオ「OTTAVA」プレゼンターも務める。
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