若きバッハへのオマージュを込めて
「ゴルトベルク変奏曲」で初めて来日公演を行ったのが、ちょうど10年前の2005年。以来、幅広いレパートリーに取り組みながらもバッハ作品の探究に情熱を注いできたマルティン・シュタットフェルト。35歳を迎える今年、久しぶりの来日公演で再びオール・バッハ・プログラムを披露する。
02年バッハ国際コンクールに最年少で優勝。2年後にリリースした彼の「ゴルトベルク変奏曲」がグールドの名盤としきりに比較され、グールドの再来と称されたのは、そこにバッハの音楽の美しい構造を活かしながらも枠に捉われない、自由な感性があったためだろう。
今回シュタットフェルトが取り上げるのは、バッハのオルガン曲を自らピアノ編曲した作品を中心としたプログラム。かねてから見せていたクリエイティヴな素質が存分に発揮される内容だ。選曲にもこだわりが感じられる。バッハが20代から現在のシュタットフェルトの年齢である30代半ばごろまでという若き日に書いた作品が集められ、自身が演奏家として歩んできた道のりを辿るような趣となっている。コラール前奏曲「暁の星のいと美しきかな」や、「トッカータとフーガ」BWV565は、バッハが20歳頃に書いたとされるオルガン曲。原曲の質感をスケールの大きなピアノで再現する。後半の「シャコンヌ」や「パッサカリア」の編曲版は、その大胆で緻密な編曲の才によってどんな音楽となるのか期待できそう。
歳を重ねてより深化した音楽性とともにシュタットフェルトが挑むバッハ。ホールで体験したい。
文:高坂はる香
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年5月号から)
5/27(水)19:00 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
問 渋谷区文化総合センター大和田 ホール事務室03-3464-3252
http://www.shibu-cul.jp
他公演
5/28(木)ミューザ川崎シンフォニーホール(044-520-0200)
(曲/J.S.バッハ:イタリア協奏曲, ゴルトベルク変奏曲)