世界屈指のメゾソプラノを称えて
藤村実穂子の歌をはじめて聴いたのは、2001年のことだった。
新国立劇場の《ラインの黄金》でフリッカを歌ったときである。夫である主神ヴォータンにたえまなくお小言を浴びせるこの役を、けっして歌のフォルムをくずさずに骨格を保ちながら、きわだった存在感で表現してみせたその知性的な歌唱は見事なもので、翌年夏のバイロイト音楽祭でこの役を歌うことになっていると聞いて、それもしごく当然と納得した記憶がある。
藤村はこの出演によって、バイロイト音楽祭で主要キャストを歌う、史上はじめての日本人歌手となる快挙を達成したのだが、それよりも重要なのは、それから9年連続で出演して、さまざまな役柄を歌ってみせたことである。さらに世界各国の一流歌劇場に招かれるだけでなく、オーケストラのコンサートやリート・リサイタルでも活躍してきた。
その藤村が第44回サントリー音楽賞を受賞して、記念コンサートを開くと聞いて、正直な感想は「まだもらっていなかったのか」という驚きである。彼女の国際的な活躍ぶりからして、すでにこの賞を受賞しているものとすっかり思い込んでいたのだ。
当日の曲目は、彼女のキャリアをまさに集約したもの。ワーグナーの楽劇と歌曲に、サン=サーンスとチャイコフスキーのオペラ・アリア、それにバッハとシューベルト。指揮はクリストフ・ウルリヒ・マイヤー、管弦楽は新日本フィルハーモニー交響楽団だ。なかでもシューベルトの「魔王」は、どうやら珍しいオーケストラ伴奏版で歌ってくれるらしいので、これも楽しみだ。
文:山崎浩太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)
2015.2/16(月)19:00 サントリーホール
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
http://www.suntory.co.jp/sfa