東京交響楽団 第10回八王子定期演奏会

記念すべき演奏会を破竹のマエストロが絢爛な名曲プロで魅せる

文:飯尾洋一

 10月29日、10回目となる東京交響楽団八王子定期演奏会が開催される。東京交響楽団第1回八王子定期演奏会が開催されたのは2016年のこと。以来、着実に回を重ね、今回記念すべき第10回を迎えることになった。指揮を務めるのは、2021年4月に同楽団の正指揮者に就任した原田慶太楼。今、日本でもっとも勢いのある若手指揮者といってよいだろう。早くからアメリカに渡り、シンシナティ交響楽団およびシンシナティ・ポップス・オーケストラ、アリゾナ・オペラ、リッチモンド交響楽団のアソシエイト・コンダクターを経て、2020年シーズンよりアメリカのジョージア州サヴァンナ・フィルハーモニックの音楽監督および芸術監督に就任。アメリカ、ヨーロッパ、アジアを舞台に国際的な活躍をくりひろげている。国内では東響をはじめ、N響、読響、都響など主要オーケストラの指揮台にたびたび立って、客席を沸かせてきた。エネルギッシュな指揮ぶりでオーケストラを鼓舞し、作品に鮮烈な躍動感と生命力をもたらすことのできる稀有な実力者である。

原田慶太楼 (c)Claudia Hershner

 プログラムには名曲中の名曲がずらりと並ぶ。ヨハン・シュトラウスⅡ世の喜歌劇《こうもり》序曲、サティ(ドビュッシー編)の「ジムノペティ」第1番、小田実結子の「生まれかわりの旅 ~出羽の山々に想いを馳せて~」(2022)、ビゼーの「カルメン組曲」第1番、ヨハン・シュトラウスⅠ世の「ラデツキー行進曲」、グリーグの「ペール・ギュント組曲」第1番、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」に「ボレロ」。たとえ曲名を知らなかったとしても、さまざまな機会にだれもがどこかで耳にしている名曲がほとんどだろう。入門者から熱心なファンまで、万人が楽しめるプログラムになっている。

 いずれ劣らぬ名曲ばかりで、全編が聴きどころといってよいが、とりわけ楽しみな曲といえば、ラヴェルの「ボレロ」。小太鼓がボレロのリズムを刻み続けるなかで、同じメロディが楽器を変えながら次々とくりかえされる。最初はフルートで、次にクラリネットで、そしてファゴットで……。珍しいトロンボーンのソロまで用意されており、あたかも名手たちの腕自慢といった趣だ。東響自慢の管楽器奏者たちのソロをたっぷりと味わうと同時に、このオーケストラならではの豊かで濃密なサウンドを堪能できる。「ボレロ」は作曲者ラヴェルにとって生涯最大の成功作となったが、それもそのはず、これだけオーケストラの魅力を引き出してくれる名曲はそうそうあるものではない。

東京交響楽団 (c)青柳聡

 原田は今回のプログラムの聴きどころをこう語っている。

「今回のプログラムはクラシックの定番から東京交響楽団も初めて演奏する作品も入っている盛りだくさんなプログラムです。私が正指揮者になって『こども定期演奏会』で始めた『新曲チャレンジプロジェクト』の第1回作曲家に選ばれた、小田実結子さんの作品『生まれかわりの旅 ~出羽の山々に想いを馳せて~』を演奏します。小田さんは今もっとも活躍している若手作曲家のひとりで、彼女のメロディとハーモニーはいつも美しく、とても懐かしいサウンドの持ち主です。私のDNAでもあるオペラから、名作《こうもり》と《カルメン》、そして誰もが一度は聴いたことのあるメロディ『亡き王女のためのパヴァーヌ』と『ボレロ』も演奏します! クラシックのコンサートに行った事がない人でも絶対に楽しめる内容です」

※東京交響楽団&サントリーホール『こども定期演奏会』にて、若手作曲家が子どもの書いたメロディーを使って、オーケストラ作品を完成させるプロジェクト。作品は原田の指揮で初演される。

 小田実結子の「生まれかわりの旅 ~出羽の山々に想いを馳せて~」は羽黒山、月山、湯殿山の出羽三山を題材にした作品で、原田指揮・山形交響楽団が2022年に初演を行っている。山形、京都に続いて、今回が都内では初めての演奏となる。有望な若手作曲家の作品を積極的に紹介しようという原田の姿勢があらわれている。

 東響の八王子定期演奏会に原田が登場するのは今回が2回目。前回は2019年9月の第5回で、その際は山中千尋トリオと共演してシンフォニック・ジャズに焦点をあてていた。今回、2度目の登場にあたって、その意気込みを語ってもらった。

原田慶太楼 (c)Hiroyuki Nagatake

「東京交響楽団第5回八王子定期演奏会のことは今でもよく覚えています。ジャズ・ピアニストの山中千尋さんとのエキサイティングなJAZZプログラムでした。J:COMホール八王子はとてもすばらしい音響で、今回のプログラミングはこのすてきなホールの持っている音響をフルに使える内容になっています。色彩の魔術師といわれたラヴェルの作品を始め、東響からキャリアスタートした小田実結子さんのカラフルな音使いも体験できる内容となっています。前回八王子で演奏したときは、まだ私は東響の正指揮者ではありませんでしたが、今回は『東響 × 慶太楼』サウンドをたっぷり紹介したいと思います」

【Information】
東京交響楽団 第10回八王子定期演奏会

2023.10/29(日)14:00 J:COMホール八王子

〈出演〉
指揮:原田慶太楼
管弦楽:東京交響楽団

〈曲目〉
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇《こうもり》序曲
サティ(ドビュッシー編):ジムノペティ 第1番
小田実結子:生まれかわりの旅 ~出羽の山々に想いを馳せて~(2022)
ビゼー:カルメン組曲 第1番
J.シュトラウスⅠ世:ラデツキー行進曲
グリーグ:ペール・ギュント組曲 第1番
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ、ボレロ

問:八王子市学園都市文化ふれあい財団042-621-3005
https://www.hachiojibunka.or.jp/archives/eventinfo/20231029tokyoteiki/