「ハイドンやモーツァルトを差し置いてタイトルがヴィトマン推しとは、エイベックスもなかなか大胆だな」という第一印象は、聴き始めて一瞬で霧消した。プレストの高速パッセージをヴァイオリンと競うトランペット。しかもこのパッセージは無窮動のように延々と続く。一体どこでブレスを取っているのか? 種明かしは循環呼吸(吐きながら吸う)だ。参りました。確かにこれは史上もっとも難しいトランペット協奏曲かもしれない。エキサイトした気持ちを、フリューゲルホルンに持ち替えたナカリャコフが古典派の美しい旋律(ハイドン:オーボエ協奏曲、モーツァルト:ホルン協奏曲第4番)で静めてくれる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年10月号より)
【information】
CD『空前絶後の超絶技巧〜ヴィトマン:不条理/セルゲイ・ナカリャコフ』
ヴィトマン:不条理〜トランペット小協奏曲/ハイドン:オーボエ協奏曲(フリューゲルホルン版)/モーツァルト:ホルン協奏曲第4番(フリューゲルホルン版)
セルゲイ・ナカリャコフ(トランペット/フリューゲルホルン)
イェルク・ヴィトマン(指揮)
アイルランド室内管弦楽団
エイベックス・クラシックス
AVCL-84153 ¥2750(税込)