二人の巨匠が追求し続けた技巧性を、現代の名手がひもとく
世界的ヴァイオリニストの渡辺玲子がプロデュースする、Hakuju Hallの人気シリーズ「レクチャーコンサート」の第8回が開催される。国際教養大学特任教授でもある渡辺のレクチャーは、作曲家や作品の背景に留まらず、自身の経験と研究による知見、専門的な分析など、聴きごたえ充分の話がたっぷりと展開される。さらに、渡辺のヴァイオリンと名ピアニスト江口玲の演奏がまた世界的水準。耳にも頭にもこの上なく刺激的な時間が約束されているのである。
今回のテーマは「パガニーニ、そしてシューマン」。一見意外な組み合わせだが、19世紀前半、ヴァイオリンの超絶技巧で一世を風靡したパガニーニに、シューマンも大いに影響を受けていた。特にパガニーニ「24のカプリース」はシューマンにとって特別な作品で、創作活動の初期にはピアノの「練習曲」に編曲し、晩年には病床で伴奏付けを行っている。当公演ではその両方を体験できる上に、後期の名品ヴァイオリン・ソナタ第1番と、最晩年の「幻想曲」op.131まで演奏されるのが貴重。楽器の扱い方にはパガニーニへの傾倒が反映されていて、特に「幻想曲」の濃厚なロマンと技巧性は大変なもの。他にもパガニーニの第1協奏曲のクライスラー編曲や、第2協奏曲を基にしたリスト「ラ・カンパネラ」(ピアノ・ソロ)なども演奏され、パガニーニを通して多角的にシューマンの新たな一面を浮かび上がらせる。そして「ヴィルトゥオジティ」を追求した彼らの芸術を耳と頭で体感するのに、渡辺と江口はまさしく理想的な存在だ。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2023年8月号より)
2023.9/13(水)19:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp