気鋭のコロラトゥーラ歌手が歌うアディーナの魅力
昨年夏の東京二期会《ホフマン物語》に抜擢され、オランピア役で目の覚めるような美しいコロラトゥーラを聴かせて喝采を浴びた佐藤優子が、サントリーホール オペラ・アカデミー公演《愛の妙薬》でアディーナを歌う。彼女自身、このアカデミーの体制が刷新され、元テノール歌手の指揮者ジュゼッペ・サッバティーニが指導者のトップに就任した2011年に受講した第1期生。新体制になってから、アカデミー出身者が主役を歌うのは初めてのことだ。
「アカデミーではサッバティーニ先生があらためて発声の基礎から徹底的に教えてくださいました。それを完全に身体にしみ込ませるのにはとても時間がかかりましたけれども、今後長く歌って行く中で、もしかしたらほんの1ミリ2ミリに過ぎないそうした基礎の基礎の部分を、徹底的に埋めることができたのは大きかったと思います」
アディーナは、オペラの最初と最後とで変わる内面性を演じなければならない難しい役だと語る。
「彼女は本当の愛を知らなかったと思うんです。人から愛されることも、人を愛することも。それに気づくのが〈何という愛情!〉の二重唱です。短い序奏の和音で胸を貫かれるんですね。そして最後にアリア〈受けとって、あなたは自由よ〉で、彼女がどう変わったかを見せなければなりませんし、お客様を泣かせなければいけない。これは難しい役だなと思います。声楽の技術的には、ベルカント・オペラの時代ですので、まずは美しい声を聴かせなければなりませんが、ただ声を出すだけではなく、そこに言葉の意味を密接につなげなければなりません。この役は全体的に出しやすい音ばかりなので、声に偏りがちになって難しいんです。言葉を乗せながら美しく歌うということがどんなに大変かということをあらためて思い知りました」
東京では小ホールでピアノ伴奏、横須賀では大ホールでオーケストラ伴奏(サッバティーニ指揮!)と、異なる2つの条件での上演もシリーズの特徴になってきた。
「劇場のサイズはやはり意識してしまうんです。でもそれによって声を変えてしまうとテクニックが崩れるので、稽古で歌っているそのままのフォームで歌えるようにしなければなりません。そこは最大の技術だと思います」
来年2月の東京二期会《リゴレット》でジルダを歌うことがすでに発表されているが、その後にはヨーロッパへの留学も視野に入れているそう。今後さらに大きな飛翔が予感される期待の若手の“現在”を、今のうちに存分に耳に刻み込んでおきたい。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年11月号から)
サントリーホール オペラ・アカデミー公演 ドニゼッテイ《愛の妙薬》
11/9(日)15:00 よこすか芸術劇場
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
11/13(木)18:30 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017