満を持してロシアの大作をレコーディング
日本コロムビア第3弾のアルバムはロシア作品集だ。バラキレフの「イスラメイ」など、リサイタルでしばしばロシアものを披露している福間洸太朗だが、意外なことにかつてはロシア音楽に「コンプレックスがあった」と言う。
「チャイコフスキーの『ドゥムカ』を15歳で初めて弾いたとき、先生から『音や音楽が細い』と言われ、自分にはロシア音楽は向いていないのかな、と思ったのです」
そんな思いを徐々に払拭させたのがムソルグスキーの「展覧会の絵」だった。20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝後、アメリカツアーと日本デビューという飛躍の舞台でこの作品に取り組んだことが、ロシア音楽へのアプローチを変化させた。
「すべてがハードな挑戦に思えたあの時期に『展覧会の絵』を弾いて理解を深められたことが、ロシア音楽への距離を縮めることにつながりました。以来、いつかこの作品をレコーディングしたいと思っていました」
形式を重んじるドイツ音楽、色彩感に満ちたフランス音楽とは違うものーー福間がロシア音楽に感じるのは、「分厚い響きや濃厚な感情、そして時に意表を突くような自由な表現」だと語る。
「イメージを極限まで引き伸ばし、多少大げさに演奏しなければロシアらしく響きません。そのためには『こうしたいんだ!』という強靭な意志と体力が必要です。ロシア人のように身体が大きくなくても、音のもつ空間性をいかに大きくイメージできるかで、出せる響きは変わります。僕は普段の練習から大ホールの響きをイメージし、実際は1センチしか沈まない鍵盤が1メートルくらい沈むことを想像しながら演奏しています」
昨年のリサイタルでも取り上げたストラヴィンスキー「火の鳥」(アゴスティ編曲)はスイスの友人の演奏を通じて知った。「あまり演奏されていませんが、とても優れたピアノ版です」。グリンカの「ひばり」(バラキレフ編曲)は、「もとは歌曲で、遠くの愛する人に自分の歌を届けたいという気持ちが歌われます。録音時は詩を譜面台の上に置いて演奏しました」。15歳以来「眠らせていた」という「ドゥムカ」は、曲への愛情は当時のままに、まったく新しい解釈で録音した。
10月24日にはCDリリース記念のリサイタルも行う。ロシアの人々の心に根付いたロシア正教会の鐘の音が、「音楽作品の至る所に感じられる」と福間は語る。
「真冬のロシアを旅したことはありますが、いつかロシアで演奏もしたい。それが僕の今の夢です」
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年9月号から)
10/24(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu
他公演
10/13(月・祝)いずみホール 問:キョードー大阪06-7732-8888
10/25(土)伊那市生涯学習センター 問:0265-78-5801
10/26(日)相模湖交流センター 問:042-682-6121
【CD】
『火の鳥 ―ロシア・ピアノ作品集―』
日本コロムビア
COCQ-85095 ¥2,800+税