新たに生まれ変わる美空ひばりの名旋律
チェロの姉・林はるかと編曲・ピアノの妹そよかのユニット「アウラ・ヴェーリス」の2作目のアルバムは美空ひばりのインスト・カバー。今年没後25年を迎えた昭和の歌姫の名曲13曲がさまざまな表情で収められている。美空ひばりをリアルタイムで聴いた世代ではない2人はCD-BOXで聴き込むことから始めたという。
はるか(以下H)「ひばりさんの歌のうまさと独特の声の魅力にあらためて驚きました」
そよか(以下S)「曲も素晴らしいんです。Aメロ─Bメロ─サビと、すべての部分が印象に残るのはすごい」
2人の一番のおすすめが〈お祭りマンボ〉。チェロの胴を叩いたり弓でこすったり、打楽器的な効果を加えている。
H「2人でいろいろ試しながらイメージに合った音を入れていきました」
S「伴奏も、不協和音を混ぜながらがちゃがちゃしたお祭りの賑わいを表現しています」
〈リンゴ追分〉では思わぬ効果も体験。
H「原曲のホ短調にこだわりたかったのですが、最低音がH(シ)になって、チェロはC(ド)までしか出ないので弾けない。それでスコルダトゥーラ(変則調弦)で下の弦を半音下げたら、その弦だけなく全体が独特の響きがして心地よくなったのは発見でした」
まったく新しく生まれ変わっているのが〈柔〉だ。柔の道を歌った決然としたいさましい調子の歌が、郷愁さえ感じさせる物悲しく美しい旋律の際立つ小品となった。
S「最初は原曲なりの雰囲気の編曲で、演奏で少し変えようと思っていたのですが、録音スタジオでやっぱり書き直そうと決心して、調性も和音の付け方もまったく変えて、30分ぐらいで書くことができました。追い込まれたほうがいいものができるタイプです(笑)」
姉妹のアンサンブルのやりやすさは、互いに気をつかわずにすむことだという。
H 「アレンジャーに『この音ちょっと変えたほうがいいんじゃない?』と遠慮なく提案できるのも妹だからこそです」
S「たとえば〈みだれ髪〉は、むせび泣く雰囲気を出したくて、チェロでは弾きにくい、ヴァイオリンみたいな高い音域を使っているので、姉以外の人のためにはなかなか書けません」
2人はこのユニットの特徴を、互いが隠れることなく前面に出ていることだと語る。そんな個性の主張の結果に生まれる、予定調和ではない均衡。アンサンブルの理想形によって、新たな生命を吹き込まれた名旋律たちが自由に飛翔している。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年8月号から)
【CD】
『愛燦燦 〜チェロとピアノで聴く ひばりメロディー』
日本コロムビア
COCQ-85089
¥2500+税 8/6(水)発売