豊嶋泰嗣(指揮/ヴァイオリン) 新日本フィルハーモニー交響楽団

名手たちの個性が煌めく協奏曲の愉悦


 新型コロナウイルスの影響でどのオーケストラも大編成の作品でプログラムを組むのが難しくなっている。しかし、そんな制約を逆手にとるかのような意欲的な公演も開かれている。11月28日の新日本フィル第628回定期演奏会ジェイドもそのひとつ。同楽団のソロ・コンサートマスターである豊嶋泰嗣が指揮と独奏ヴァイオリンを務め、同じくコンサートマスターの西江辰郎、首席第2ヴァイオリン奏者のビルマン聡平、チェンバロの中野振一郎の独奏により、バッハ、ハイドン、モーツァルトの作品が演奏される。名手たちの共演だ。

 プログラムはバッハの管弦楽組曲第3番、2つのヴァイオリンのための協奏曲ニ短調、ハイドンのヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲ヘ長調、モーツァルトの歌劇《偽りの女庭師》序曲、2つのヴァイオリンのためのコンチェルトーネ ハ長調 K.190。昨今のシンフォニーオーケストラがあまり取り上げないバロック音楽およびその影響を色濃くにじませた古典派初期の音楽が並ぶ。

 特にハイドンとモーツァルトの両協奏曲は複数ソリストを要する古典派のコンチェルトという点で興味深い。バロック時代の合奏協奏曲的な発想を受け継いで、ソロ協奏曲とは一味違った親密なアンサンブルがくりひろげられる。奏者と奏者の音によるコミュニケーションが音楽に命を吹き込む。そんな室内楽的な愉悦をたっぷりと堪能できるプログラムが組まれた。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2020年11月号より)

第628回 定期演奏会 ジェイド〈サントリーホール・シリーズ〉
2020.11/28(土)14:00 サントリーホール
*本公演は有料ライブ配信を行います。詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。
問:新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 
https://www.njp.or.jp