ギターの師でもあった亡き父に捧げられたアルバムは、父が愛奏し、新井伴典が教えを受けたスペインの音楽を集めた。アルペジオが華やかに散り、旋律は軽やかに踊る。情熱のステップが、郷愁のため息へと移り変わる。技巧を技巧と感じさせず、奏者と楽器と作品が三位一体となって、力まない自然体の音楽が流れていく。親しい人が話しかけてくるかのように、この楽しいおしゃべりはとどまるところを知らない。ギターの故郷の音楽は新井にとってもはや血肉化された身体の一部なのだろう。最後に収録されたフェレールはしみじみとしたメロディーが、失われた人の温もりをひそやかに伝えている。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2020年2月号より)
【information】
CD『スペインの歌/新井伴典』
アルベニス(新井伴典編):入り江のざわめき/モレノ・トローバ:ラ・マンチャの歌/ロドリーゴ:小麦畑で/タレガ:4つの小品/トゥリーナ:セビリア幻想曲、タレガ讃歌/プジョール:セギディーリャ/新井伴典編:5つのカタロニア民謡/フェレール:父の温かみ
新井伴典(ギター)
コジマ録音
ALCD-7247 ¥2800+税