リード楽器と撥弦楽器の幸福な邂逅
NHK交響楽団で活躍する一方、室内楽奏者としても活躍するオーボイストの池田昭子。そして、日本を代表するギタリストで、公開中の映画『マチネの終わりに』で演奏監修も担当して話題の福田進一。そんな二人の名手によるアルバム『白鳥の歌』が発表された。優美なオーボエと、鮮烈なギター。全く異なる美点を持つ2つの楽器の邂逅が、新たな響きへの扉を開く。
「福田さんは、音楽的な造詣の深さやご経験、人間性…全てが超一流。そして、年下の私にも丁寧に接してくださる紳士です」と前置いた池田。「近い距離での演奏は、向かい合って対話するというより、並んで歩きつつ、周りの風景について様々に語り合う、という感覚でした。アルペジオひとつにも美しい音楽が溢れているので、それにいかに応えるかに集中しました」。
一方、「オーボエの音は、人間の歌声そのもの」と言う福田。池田を「表現が非常に繊細で柔らかく、そばで伴奏していても、彼女の音を聴きながらいつの間にか魅了され引き込まれる。そんな魔法の笛吹きです」と評する。
「オーボエはピッチが正確なので、ギターの調弦と音程には、普段より気を遣いました。特に音程は、微妙に左指の押さえる圧力を変えて調節しましたが、良い結果が出たのでは。右指も弦を弾くタッチを柔らかく、レガートの表現を心掛けました」
収録曲は、19世紀フランスのナポレオン・コストや20世紀オーストリアのカール・ピルスによる、この編成のための珍しいオリジナル作品を軸に。「特にピルスの第1楽章は、フランス・バロックのようで、私もとても好きな曲」と池田。一方、福田は「ピルスが管楽器の世界では高い評価を受けた作曲家で、この作品が、ウィーンの名ギター教授カール・シャイトの助言で書かれたことを、後になって知りました。コストも含めて、この編成の作品は希少で重要です」と明かす。
そして、そのコストがギター伴奏用に編曲した、シューベルトの歌曲も収録。アルバムタイトルも、歌曲集名から採った。「実は、バリトンの河野克典さんと演奏したばかり。きっとオーボエとでも機能すると思いました」と福田。また、グリーグの「抒情小品集」は「私の親友のドイツ人ギタリストが、フルートとアルト・フルートのために編曲したもの。そのままオーボエとイングリッシュ・ホルンに置き換えられるし、むしろその方が美しいと考えました」と話す。
「健康で、好奇心を絶やさず、あらゆる人たちを触発し続けたい」と語る福田。録音の多さでも知られるが、「CDのリリースは、今年だけで5枚。通算90枚を超えて、冗談だった“生涯100枚計画”が現実味を帯びてきました。今のうち、“200枚”に変更すべきかも…」と苦笑する。かたや、池田は「この世の宝である素晴らしい音楽を最高の形で演奏する。それが使命だと感じています」と締め括った。
取材・文:寺西 肇
(ぶらあぼ2019年12月号より)
CD『白鳥の歌 〜オーボエとギターのための作品集〜』
マイスター・ミュージック
MM-4069 ¥3000+税
2019.11/25(月)発売