印田千裕(ヴァイオリン)& 印田陽介(チェロ)

知られざるデュオ作品の奥深き世界を追い求めて

 ヴァイオリンとチェロといえば弦楽器の女王と王様のような花形だけれど、この2本の楽器だけの二重奏にフォーカスして活動しているデュオは珍しい。東京藝大卒業後に英国王立音楽院で学んだ印田千裕と、同じく藝大からプラハ音楽院に留学した陽介の姉弟。2012年から毎年開いているリサイタルは今年でもう8回目だから、このジャンルの第一人者と言って差し支えないだろう。

 6歳違い。やや歳が離れていることもあり、子どもの頃に二人で弾いた思い出はない。

千裕「陽介が留学から帰ってきたのがきっかけです。やればやるほど面白くなってきました」

 ラヴェルのソナタなどは有名だが、この編成のレパートリーは少ないのではないか。

陽介「意外にも(笑)作品は山ほどあります。ただ、リサイタルの場合は、聴いていただくに値する曲をどれだけ揃えられるかということは考えなければなりません」
千裕「そして偏らないように。毎回必ず邦人作品を入れ、バロックから現代曲まで、バランスよく組むことを心がけています」

 基本的にこの編成のためのオリジナル作品のみを演奏し、アンコール以外では編曲作品は弾かないという「しばり」を課している。今回もミヨーやチェレプニンなど、見覚えのある作曲家の名前もあるものの、おそらく多くの人にとって、未知の曲ばかりが並ぶプログラムだ。

陽介「プロの弦楽器奏者でも知らないような曲ばかりです。でも聴いて面白い、すごくいい曲ばかりを選んでいますので、いろんなものが楽しめるし、きっと気にいる曲が見つかると思います」

 伴奏楽器のない二重奏の難しさもある。
陽介「二人だけなので、どうしても音数が多くなりますね」
千裕「2つの楽器が対等に扱われるので、たぶんチェロは大変だと思います」

 もちろん、アンサンブルに、血のつながった姉弟ならではの利はあるだろう。

千裕「何も言わなくても、私がどう弾きたいのかを、他の誰よりも察知してくれる感じはありますね」
陽介「音色とか、音の種類を合わせやすいような気がします。赤ん坊の頃から、一番近くにあったヴァイオリンの音が姉ですから。朝起きると隣で姉が練習している、みたいな(笑)。でもそれだけでなく、7年積み重ねたことで、最近はより合うようになってきたとも感じています」

 その絶妙なアンサンブルも手伝って、二人の演奏は実に表現豊か。ときにはまるで管弦楽のようなカラフルな音のイメージさえ呼び起こす。ぜひ一度耳を傾けてほしい、目からウロコの二重奏だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2019年11月号より)

印田千裕 & 印田陽介 デュオリサイタル 〜ヴァイオリンとチェロの響き Vol.8〜
2019.11/17(日)14:00 王子ホール
問:マリーコンツェルト03-3983-2026 
http://www.chihiroinda.com/