音楽の時代をめぐる芸術の旅
アラベラ・美歩・シュタインバッハーが5年ぶりにトッパンホールでリサイタルをひらく。今回はバッハ「ソナタ ト短調 BWV1020」とアルヴォ・ペルト「フラトレス」を中心にプログラムを組んだ。
「バッハとペルトの作品は、時代はまったく違うのですが、“聖なる音楽”ということで共通しています。ペルトの作品は、深くて時が止まるような、瞑想するような感覚になります。私は瞑想が好きなので、ペルトの作品には親近感を感じています。そしてバッハの作品にも似たような雰囲気を感じます。最初にバッハのソナタを選んだのは、単純に好きだからです。実は夏にアンスバッハでのバッハ週間音楽祭で、バッハとペルトのみの演奏会を開き、その際にこの曲を取り上げる予定です」
ベートーヴェンのソナタ「クロイツェル」は、バッハとのドイツつながり。
「ベートーヴェンの協奏曲はたくさん演奏しましたが、ソナタは実はあまり演奏していないのです。ソナタの中でも第9番は他のソナタに比べて弾くことが少なかったですね。『クロイツェルの勉強はいつでもできる』とは思っていたのですが、今、やっとそのときが来ました(笑)。プロコフィエフは、ペルトとの20世紀つながりです。プロコフィエフの2番のソナタは大好きで、10代の頃によく聴いていました。もともとはフルート・ソナタですが、個人的にはヴァイオリンの方が魅力ある表現ができると思っています」
このプログラムは、旅に出るようなイメージで組んだという。
「バッハで始めて、純粋な音楽を楽しみます。それから活発なベートーヴェンに進みます。そして瞑想するペルトが入って、再びエネルギッシュなプロコフィエフで終わります。音楽の時代をめぐる旅でもあります」
ピアノの入江一雄とは今回が初共演である。
「初共演の人とは、サプライズがあり、どういう音楽が作れるのか楽しみです。トッパンホールは、温かく包み込まれるようで、とても素敵なホールです。また、聴衆が素晴らしかったという印象があります」
近年は後進の指導にも取り組む。
「私の経験や知識を若く才能ある人に伝えたいと思い、恩師であるアナ・チュマチェンコ先生が教えていらっしゃるマドリードの大学のクラスを手伝い始めました。私は数ヵ月ごとにレッスンしています。“チュマチェンコ=シュタインバッハー教室”なのです(笑)」
現在、ウィーンに暮らしている。
「ウィーンの人と結婚したので、2年ほど前から住んでいます。ウィーンは小さい頃からとても好きでした。時にはホーム・コンサートもひらきます。音楽だけでなく、パーティのように飲んで食べて、時間をともに過ごすのです」
取材・文:山田治生
(ぶらあぼ2019年7月号より)
2019.7/17(水)19:00 トッパンホール
問;トッパンホールチケットセンター03-5840-2222
http://www.toppanhall.com/