大野和士(指揮) 東京都交響楽団

喜劇と悲劇が交錯する近代音楽の深淵


 大野和士率いる都響が10月定期で披露したシュレーカーとツェムリンスキーの作品を聴いて、同コンビのプログラミングの妙と、大野が清新な抒情美や色香を都響に付与しているのを実感した。同様の感触を期待できるのが2019年1月定期のAシリーズ。特にマーラーの「少年の不思議な角笛」(5曲)は要注目だ。マーラーの交響曲演奏に実績をもつ同楽団が、大野のもとで、歌曲─特に多彩で深い「角笛」─をいかに表現するのか? 管弦楽も重要なこの曲に大野がいかなる美感をもたらすか? など興味は尽きないし、独唱がイアン・ボストリッジとなれば期待はいっそう膨らむ。彼は、ベルリン&ウィーン・フィル等の一流楽団と共演を重ね、録音も評価の高いイギリスの世界的テノール。歌曲の繊細極まりない歌唱は現役随一ともいえるボストリッジと同コンビのコラボには、マーラー歌曲の深淵を抉る名演の予感が漂う。
 前プロにはマーラーと同時代のイタリア出身の作曲家ブゾーニの「喜劇序曲」が置かれている。《フィガロの結婚》に似た20世紀版モーツァルト序曲ともいえるこの曲の珍しい生演奏とマーラーとの比較も見どころだ。そして後半は、プロコフィエフの交響曲第6番。大野が「戦争の犠牲者のために書かれ、作曲者の個人的な思いは(有名な第5番よりも)この第6番にこそ込められている」(年間パンフ)と語る同曲は、「角笛」の後に置かれるとより思索的な意味を増す。さらに終楽章の「全てを笑い飛ばすようなギャロップ」(同)は、1曲目の「喜劇序曲」への回帰を示唆するかのよう。実に凝ったこのプログラム、足を運ぶ価値大だ。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2019年1月号より)

第872回 定期演奏会Aシリーズ
2019.1/15(火)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp/