夢と悪夢のグラデーション
井上道義が初めて日本のプロオーケストラの定期公演を指揮したのは、1976年の日本フィル東京定期演奏会だったという。当時のメイン・プログラムはベルリオーズの「幻想交響曲」。そんな縁で結ばれた井上と日本フィルが、40年以上の時を超えてふたたび「幻想交響曲」を演奏する。しかもプログラムがおもしろい。ラヴェルの「マ・メール・ロワ」組曲にはじまり、八村義夫の「錯乱の論理」、ベルリオーズの「幻想交響曲」と続く。
ラヴェルの「マ・メール・ロワ」で題材となるのは、「眠れる森の美女」や「美女と野獣」といった童話の世界。一方、「錯乱の論理」が生み出すのは混沌としたモダンな音響美。八村義夫は1938年に生まれ、85年に早世した作曲家。75年に作曲された「錯乱の論理」はピアノとオーケストラのための作品で、傑作として名高い。超難曲というピアノ・パートはこの曲の録音もある渡邉康雄が担う。そしてベルリオーズの「幻想交響曲」では、恋に破れ絶望してアヘンを吸った芸術家が、死刑を宣告されて、魔物たちの饗宴を目にする。
童話、錯乱、幻想という3段階のファンタジーが並べられたこの日のプログラム。どのようなストーリー性を読み取るかは聴く人次第。夢と悪夢のグラデーションとでもいうべきか。また、八村作品での精緻な管弦楽法が生み出す音色効果を含めて、作曲家の多彩な管弦楽法を聴くという点でも興味深い公演となりそうだ。
文:飯尾洋一
(ぶらあぼ2017年12月号から)
第696回 東京定期演奏会
2017.12/8(金)19:00、12/9(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911
http://www.japanphil.or.jp/