公益財団法人日本オペラ振興会が10月12日に都内で会見を開き、2018/19年主催ラインアップを発表した。同振興会は洋楽作品を上演する藤原歌劇団と日本オペラ協会の2つの団体から成っており、会見には佐竹康峰(日本オペラ振興会理事長)、折江忠道(藤原歌劇団総監督)、郡愛子(日本オペラ協会総監督)、なかにし礼(作家)、砂川涼子(ソプラノ)の5名が登壇した。
(2017.10/12 都内 Photo:I.Sugimura/TokyoMDE)
最初に佐竹による挨拶があり、「来年で創立83年を迎える藤原歌劇団、創立60周年という節目の年を迎える日本オペラ協会という、和洋双方のオペラ上演に力を入れていきたい。日本は歌舞伎や能など、また近現代の舞楽まで、世界で最も多くの伝統文化を擁している国であり、そうした日本人のアイデンティティーを西洋音楽の土俵に立って表現していきたいと思います」と述べたあと、地方との連携をとりながら東京以外の地域での公演を目指し、毎年継続していくこともあわせて明らかにした。
新シーズンの上演演目は両団体併せて4本。藤原歌劇団は、ロッシーニ《ラ・チェネレントラ》(18.4/28,4/29テアトロ・ジーリオ・ショウワ、5/12フェスティバルホール)、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》(新制作)(18.6/30,7/1,7/3日生劇場、 7/7よこすか芸術劇場)、 ヴェルディ《ラ・トラヴィアータ》(新制作)(19.1/25,1/26,1/27東京文化会館)。日本オペラ協会は三木稔《静と義経》(新制作)(19.3/2,3/3新宿文化センター)。
藤原の3作品について折江はそれぞれの見どころと特徴を次の通り語った。
「《チェネレントラ》の指揮は園田隆一郎さん。演出は昨年の《ドン・パスクワーレ》を手がけたフランチェスコ・ベッロットさんにお願いしました。ダブルキャストで、アンジェリーナ役の2人、向野由美子、但馬由香に加え、ラミーロ役の小堀勇介など新人が出演します。とくに小堀は従来の軽いロッシーニ歌手とは違った、力強さをもった正統派のテノールであることが魅力です。
《ドン・ジョヴァンニ》はジュゼッペ・サッバティーニさんの指揮で。もともとテノール歌手で現在は指揮者として活躍していらっしゃるマエストロは、かつて自身もこのオペラを何度か歌ったこともあると聞いているので楽しみです。演出は好調な岩田達宗さんにお願いしました。モーツァルトのオペラ含めて、(イタリア語の)オペラはレチタティーヴォなくして成り立たない。ここはぜひイタリア語に精通している藤原の歌手陣による《ドン・ジョヴァンニ》をお聴き願いたいと思います。タイトルロールには精悍で、男性的な色気が必要という観点から、今回はロシアの実力派歌手アレクサンダー・ヴィノグラードフらを起用しました。
《ラ・トラヴィアータ》は藤原にとって十八番のオペラ。3日間公演のトリプル・キャストというのが新機軸で、主役に砂川涼子さん、伊藤晴さん、光岡暁恵さんという個性の全く異なる3人による舞台が楽しめるのが非常に面白い試みです。絶対に違う《トラヴィアータ》が3つ出来上がると思います。相手役のアルフレードもヴィオレッタの3人の声質等を鑑みて、西村悟さん、澤﨑一了(かずあき)さん、中井亮一さんといったタイプの違う人を選びました。澤﨑さんは大きな役は初めてで本格的なデビューと言えます。指揮は佐藤正浩さん、演出は粟國淳さんです。今回、衣裳や装置などの美術をイタリアのアレッサンドロ・チャンマルーギさんに担当してもらいました。斬新でいながらバランス感覚のある美しい舞台になるかと思います」
続いて、日本オペラ協会初代総監督の大賀寛の後任として今年の4月に同ポストに就任した郡 愛子が《静と義経》について説明した。
「来年、日本オペラ協会が創立60周年を迎えるにあたり、今後上演を重ね日本オペラの“古典”となるべき作品はないかと模索してきましたが、身近にあったのです。それが三木稔さん作曲、なかにし礼さん台本による《静と義経》でした。1993年の鎌倉芸術館開館記念で上演されたオペラですが、台本と音楽ともに素晴らしく、理屈抜きで日本人が肌でその魅力を感じてくれる、まさに創立60周年にふさわしい作品だと思います。今回は少しイメージを変えて新しくスケール感のある作品にしたいと考えています」
《静と義経》の台本を執筆した、なかにし礼は次のように語る。
「日本オペラ協会の60周年に《静と義経》が再演されるのは個人的にとても嬉しい。私が創作オペラに情熱を持っていた頃に、岡山シンフォニーホールの杮落しで三木稔と《ワカヒメ》を上演しこれが好評を博したこともあり、鎌倉芸術館から《静と義経》の作曲依頼が来たのです。このオペラは鎌倉が舞台とは言え、ローカルな内容ではなく人のこころを打つ作品です。監修という立場で自分の作品の再誕生を見守りたいと思います。多くの人に日本の創作オペラの良さを味わって欲しいと思うし、日本のオペラの花が開くことを望んでいます」
また、オペラの在り方について次のように述べた。
「オペラというものはエンターテインメントなんです。エンターテインメントであることはけっして作品を安っぽくするものではない。モーツァルト、プッチーニのオペラはエンターテインメント性が強い作品ばかりですよ。《静と義経》は“愛の物語”のエンターテインメント。主人公2人の悲劇、義経と弁慶の友情、静という女性の悲劇…。日本人の誰もが共感できる内容だと思います」
最後に、《ラ・トラヴィアータ》でヴィオレッタを演じる砂川涼子がコメントした。
「ヴィオレッタは2014年にびわ湖ホール・神奈川県民ホールの共催公演で初めて歌わせていただいたので、大きなプロダクションとしては2度目になります。レパートリーはリリックなものに絞っていて、これまで、役を変えることはなかったのですが、ここ数年、技巧的にも表現の面でも重い役に取り組むことがあり、しっかり準備しなければいけないと思っています。今回は私を含めて3人の歌手の個性がそれぞれ違うので楽しんでもらえるのではないかと思います」
日本オペラ振興会
http://www.jof.or.jp/