記念公演にふさわしくオリジナリティ溢れる選曲で
東京交響楽団9月の定期・川崎定期にはロシアの名匠アレクサンドル・ヴェデルニコフが登場する。若くしてボリショイ劇場の音楽監督に就任、劇場改革を推進し、職を退いてからはデンマーク・オーデンセ交響楽団の首席指揮者を務めつつ、世界のトップ・オケへの客演も活発に行っている。来日も増え、東響とは2013年にロシアものを中心とするプログラムで競演しており、鮮やかな音楽作りが評判を呼んだ。
選曲にもセンスが光る。今回のプログラムはヒンデミットの「気高い幻想」から。原曲はアッシジの聖フランチェスコをテーマにしたバレエ音楽で、後年聴きどころをまとめて3楽章の組曲が編まれた。ロンド、行進曲、パッサカリアなどの古典的な様式に、ヒンデミット独特の乾いた歌謡性が香る。
ストラヴィンスキー「詩篇交響曲」でも、ヴァイオリン、ヴィオラを削った吹奏楽的な響きで乾いた叙情が歌われる。こうした宗教的情感の表現にはヒンデミットとの同時代性も読み取れよう。東響コーラスは同団の大作上演に欠かせないパートナーだが、9月にちょうど創立30周年を迎える。オペラ巧者のヴェデルニコフのタクトにどう反応するかも見もの。記念となる公演だから、ひときわ息の合ったところを期待したい。
シベリウスの交響曲第1番では、前半の乾いた情感が北欧の爽やかな叙情へと一転する。最初の交響曲とはいえ、すでにシベリウスは多数の交響詩を手がけており、この交響曲でも作曲家特有の節回しと管弦楽法が大自然の広がりをイメージさせる。
考えられた選曲で、味わい深い記念公演となろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2017年8月号より)
第653回定期演奏会 2017.9/16(土)18:00 サントリーホール
川崎定期演奏会第62回 2017.9/17(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
http://tokyosymphony.jp/