気心知れた名手2人ならではの、こだわりぬいた音楽
10月に行なわれる堀米ゆず子とジャン=マルク・ルイサダのデュオ・リサイタル。日本での2人の共演は11年ぶりだという。
「もう30年来の“悪友”です。私の親友のクララという女性が、メニューイン音楽院でジャン=マルクと一緒に勉強していて、彼女に紹介されてパリで会ったのが1982年。一緒に弾くようになったのはその数年後だと思います。素晴らしいですよ。他のピアニストにない独特の響きを持っている。私が共演させていただいたピアニストの中で一番印象に残っているのはルドルフ・ゼルキンとアルゲリッチで、その次がジャン=マルクです。練習して弾きだすと、ああ、ルイサダの音だ! って感じます。やっぱり何か持っているんですね」
海外では比較的頻繁に共演を重ねている。今回弾くのも、すでに2人で何度も弾いている掌中のレパートリー。モーツァルトの「ソナタ ト長調 K.379」とシューベルトの「ソナチネ第2番」の古典音楽から、シューマンとラヴェルの小品をはさんで、フランクのソナタへと向かうプログラムだ。
「彼はモーツァルトやシューベルトを弾く時、頑固な“古典主義”を持っています。パウル・バドゥラ=スコダと仲が良いので、その影響だと思うのですが。原典版の楽譜を使ってどうとか、そういう頭でっかちなことではなく、あくまで彼自身の“古典主義”というものなんですよ」
それゆえシューベルトなどにはとりわけ「うるさい」のだそう。
「シューベルトの“哀愁”を表現するのは難しいですね。歌だからといってべったりはもちろんダメ、寒い風が吹くみたいに弾くことはなかなかできない。ヴァイオリニストにとっても、音と音の間にエモーションがあるというのか、本当にきれいだとはわかるのですが、全然はまらないし、弾きにくいし、音は出ない…。だから今度の紀尾井ホールはいいと思います。響きがないとみじめなんです(笑)」
フランクのソナタは、“近代フランスを代表する名作”と形容されることが多い。
「でも、よく言われるように、“フランス風に軽やかに”というのは少し違うのですね。フランクはオルガニストだったのでバス声部が大事。終楽章のカノンも、旋律を追っかけるだけではうまくいかないのです。シューマンとラヴェルのバスはまったく違うし、モーツァルトとシューベルトも違うし…。だからバスに注意を注ぎながら聴くだけでも、それぞれの作曲家の特徴が見えてくると思います。そして旋律を弾く時に、バスをいっしょに弾くつもりで演奏する。それがコツですね」
息の合った2人の演奏から聴こえてくるバスの動きに注目しながら、知的かつ音楽的な営みを味わおう。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2017年7月号から)
堀米ゆず子 & ジャン=マルク・ルイサダ デュオ・リサイタル
2017.10/26(木)19:00 紀尾井ホール
問:ヒラサ・オフィス03-5429-2399
http://www.hirasaoffice06.com/
他公演
2017.10/20(金)岡山/大原美術館(くらしきコンサート086-422-2140)
10/22(日)兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
10/24(火)河内長野市立文化会館ラブリーホール(小)(音の語らい090-2196-0264)