青木涼子(能アーティスト)

能と弦楽四重奏が生み出す未知の領域

©Junichi Takahashi
 横浜みなとみらいホールの『Just Composed in Yokohama』は、日本の作曲家への毎年の委嘱作品とその再演を軸とする現代音楽シリーズ。今年は、能の謡(うたい)のための現代作品を次々と委嘱して独自の世界を築いている青木涼子が登場し、パリ在住の作曲家・馬場法子の新作と、イタリアの鬼才ジェルヴァゾーニの「夜の響き、山の中より」(2016)を演奏する。
「馬場さんの新曲は10分のシアター・ピースともいうべき作品。能の演目『羽衣』の4つのシーンによる組曲(スイート)です。馬場さんと、もう一人、作曲家・小出稚子さんの3人で作った〈作曲家のための謡の手引き〉というwebサイトにも、譜例付きで『羽衣』を解析したページがあります。またジェルヴァゾーニは音響的な考えがとても面白くて、西行法師の詩をもとにした曲なんですけど、私もエッグシェイカーを鳴らしながら演奏します。2008年に彼がサントリー音楽財団のサマーフェスティバルで来日した時にパフォーマンスを見せたことがあって、新曲をお願いして8年後にようやく実現しました。ずいぶん苦労したみたいで、難しかった! と言っていました」
 ひと口に能と言っても、彼女の活動のメイン・フィールドは謡の部分、つまり声の領域だ。
「本来は音程もリズムもフレキシブルなのが能なので、それを定めた時点で能ではないんです。私は能の世界しか知らないので、初めはそのように固定して書かれた楽譜を気持ち悪いと感じることもありました。でも繰り返し再演していると作曲家の考え方に気づく時があって、能の視点だけでは一概に良し悪しを言えない、もしかしたらそこに新しい発見、新しい魅力があるかもしれないと考えるようになりました」
 上記の『羽衣』の解析サイトにある譜例と音源で、彼女のそんな違和感、謡のニュアンスを定量譜に落とし込むことの困難さに触れることができるかもしれない。公演前週の3月5日には青木と音楽学者・白石美雪による関連レクチャーもあるので、予習したい人はぜひ(入場無料/電話申込制先着50名)。
 弦楽四重奏は成田達輝(ヴァイオリン)、百留敬雄(同)、安達真理(ヴィオラ)、上村文乃(チェロ)の4人の俊英がこの日のために集結した特別ユニット。青木との共演曲のほか、ベートーヴェンの大フーガと、シリーズ第1回目(1999年)の委嘱作品である斉木由美の「Deux sillages」に基づく、弦楽四重奏編成のための新作を弾く。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ 2017年3月号から)

Just Composed 2017 in Yokohama〜現代作曲家シリーズ〜
能・謡 × 弦楽四重奏
3/12(日)17:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
関連レクチャー 白石美雪による Just Composed 2017の楽しみ方
3/5(日)14:00 横浜みなとみらいホール レセプションルーム
問:横浜みなとみらいホール事務室045-682-2020
http://www.yaf.or.jp/mmh/