イヴリー・ギトリス(ヴァイオリン)

音楽とは、“生きる”こと


 「次のコンサートは、いつだ?!」。御年94歳のヴァイオリン界のレジェンド、イヴリー・ギトリスは、退院するや否や、こう捲し立てたと言う。今春に予定された来日公演が、体調不良を理由に中止され、ファンを落胆させたのが嘘のよう。巨匠は2週間の入院生活を終えると、フランスやスペインで充実したステージを聴かせるなど、より精力的な活動を展開。「音楽とは、生きること。そして、生きることは音楽」との自身の言葉を体現している。
 そんな不屈の巨匠が、日本のファンにも“完全復活”を宣言する。2夜にわたるリサイタルは、気心の知れたアルメニア出身のピアノの名手、ヴァハン・マルディロシアンがパートナー。まず第一夜では、ベートーヴェンの第5番「春」とヒンデミット、2つの名ソナタを軸に、マスネ「タイスの瞑想曲」など小品もたっぷりと。そして、第二夜はモーツァルトの第28番とフランク、やはり2つの名ソナタを核として、「美しきロスマリン」「愛の悲しみ」など、クライスラーを中心に名旋律を添える。
 愛器の1713年製ストラディヴァリウス“Sancy”と自分との関係を「馬と騎士」に、音楽を「永遠に共に過ごす、私の宇宙」となぞらえて、「生きていること自体が、チャレンジだ」と言い切るギトリス。今回は、春に予定していた公演よりも、さらに充実した内容となっている。気力ともに充実した老騎士が自ら広げた、愛馬を駆っての「真剣勝負」の場。それは、聴衆にとって、巨匠の美音と熱い息吹に触れる、愉悦の時間が増えたことを意味する。
文:寺西 肇
(ぶらあぼ 2016年8月号から)

第一夜 9/11(日)19:00 第二夜 9/14(水)19:00 紀尾井ホール
問:テンポプリモ03-5810-7772
http://www.tempoprimo.co.jp