名歌手たちと注目の演出でおくる大人のコメディ
功成り名遂げたローマの老紳士。時間もお金もあるから支配欲が年々強まり、頼みの甥にも小言ばかり。挙句の果てには「口答えするなら出て行け! 遺産もやらんぞ!」と怒鳴り散らす。そこで甥が反旗を翻し、老紳士かかりつけの医者と組んで自分の恋人を送り込み、屋敷をひっかきまわすよう仕向ける。その結果、女性に振り回された老人は散々な目に。彼の頑固さは改まるのか…? ベルカント・オペラの大家ドニゼッティの《ドン・パスクワーレ》は、名歌手たちの丁々発止のやりとりが楽しい喜劇のオペラ。
7月の日生劇場での菊池彦典指揮による公演では、老紳士パスクワーレ役で重鎮、折江忠道と牧野正人が競演し、彼を手玉に取るノリーナ役では名ソプラノの佐藤美枝子と新星の坂口裕子が美声を競うほか、新進テノール藤田卓也、今を盛りのバリトン森口賢二など歌役者の面々が集うので、舞台がそれは賑やかになるだろう。
ちなみに、今回は、気鋭の演出家フランチェスコ・ベッロットのステージングも注目の的。彼のコンセプトは「ドン・パスクワーレの内面の移り変わりを、舞台セットの変化で表す」もので、邸内の豪華な調度品がノリーナの手でどんどん売り払われ、彼女がパスクワーレを平手打ちにする名場面では、老人の世界観が一挙に崩れるさまを描き出すとのこと。騒動が済んで平和を取り戻した男のもとに残るのは自由、それとも孤独? 大人のコメディならではのユーモア溢れる舞台づくりをお楽しみに。
文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年7月号から)
7/1(金)18:30、7/2(土)14:00、7/3(日)14:00 日生劇場
問:日本オペラ振興会チケットセンター044-959-5067
https://www.jof.or.jp