「INAMORI ミュージック・デイ 2026」シンフォニックコンサート、11月開催
市民や学生に文化芸術のすばらしさを再発見してもらい、人生をより豊かにする機会を提供したい――。2022年にスタートした「INAMORI ミュージック・デイ」(主催:公益財団法人稲盛財団)は今年で5回目の開催だ。コンサートホールでの「シンフォニックコンサート」、京都市京セラ美術館などで音楽との出会いを提供する「ミニコンサート」、京都府内の学校を対象とした「スクールコンサート&レッスン」と、演奏会だけでなく、音楽家が学校へ足を運び、若い世代と直接交流することにも力を注ぎ、多角的に展開している。
中心となる11月3日の「シンフォニックコンサート」は、長くドイツでキャリアを積んだ小林資典(もとのり)が京都市交響楽団を指揮。サクソフォン独奏に上野耕平を迎える。二人とも「INAMORI ミュージック・デイ」初参加。
小林「実は私は以前から稲盛和夫さんの本をよく読んでいて、『生き方』なども愛読していました。『ミュージック・デイ』の内容を拝見して、稲盛さんが大切にされてきたフィロソフィーと、このプロジェクトの理念がつながっているとあらためて感じました」

稲盛財団は、科学の発展と人類の精神的な深化のバランスを重視し、その一環として文化・芸術の振興にも取り組んでいる。「INAMORI ミュージック・デイ」も、音楽との出会いを通じて豊かな感性を育み、その経験を次世代へつなぐ。
上野は、自身でも、若い世代に向けた活動を積極的に行っている。その原点には、自身が子どもの頃に経験した音楽との出会いがある。
上野「僕はもともと音楽とはほとんど縁がありませんでした。小学校で吹奏楽部に入ったのが音楽との最初の出会いです。だから、そういう機会は多ければ多いほどいいと思っています。そして、そういう場だからこそ、本当に良いものを届けなければいけないという気持ちは、いつも以上に強くなります」

今回のスクールコンサート&レッスンでは、上野が京都府立福知山高等学校を訪れ、吹奏楽部の生徒たちとともに音楽をつくる。上野自身は「レッスン」「指導」という感覚はあまりないという。
上野「むしろ一緒に考えたいんです。たとえば一緒に曲を吹いてみて、『ここ、面白くない?』『ここはどう思う?』と、生徒さんたち自身の感じ方や意見を聞いてみたい。そうやって一緒に音楽の面白さを育てていくことが、僕は大切だと思っています」
その言葉には、上野自身の原体験も重なっている。小学生の頃、吹奏楽部の顧問からかけられた「それはあなたの都合よね」という言葉が、今も心に残っているという。
上野「演奏する側の都合は、聴いている人には何も関係ないでしょう、と。長く楽器をやっていると、『この楽器はこういうものだから』と、つい言い訳をしてしまいそうになることがあります。でも、その先生は小学生だからといって子ども扱いをしなかった。音楽の美しさのためには何が必要なのかを、本当に真剣に教えてくださったんです」
だから、子どもたちが吹奏楽部を引退した途端、音楽との関係が途切れてしまうことの多い現状を気に病んでいる。
上野「せっかく吹奏楽を通して音楽に出会ったのなら、もっと音楽のいろいろな面白さに気づいてほしいし、自分なりの音楽の楽しみ方を見つけてほしい。音楽って、全部つながっていますからね。世の中には本当にいろいろな音楽があるのに、自分が演奏している曲にしか興味がないというのは、少しもったいない。自分自身がいろいろな音楽に魅せられて、豊かな人生を送ることができているので、その面白さや豊かさを少しでも皆さんと共有できたらいいな、と思います」

小林も、小中学校では吹奏楽部でクラリネットを吹いていた。今回のスクールコンサートにも「できることなら一緒に行って見学したいくらい」と乗り気だ。
小林「若い方たちと接する場は大切だと思います。こちらが教えるだけではなく、逆に教えられることも本当に多い。新しい視点に気づくきっかけにもなります」
今夏までドルトムント市立劇場の第一指揮者兼音楽総監督代理を務めていた小林がドイツで感じているのも、劇場やオーケストラと地域社会との密接な関係だ。ドイツでは小学生、中高生、さらには赤ちゃんまで、幅広い世代を対象にしたコンサートが行われているという。そうした環境だからこそ、逆に見えてくることもある。ドイツだからといって、クラシック音楽が誰にとっても身近なわけではない。
小林「クラシック音楽をやっている人間にとって、ドイツというと『バッハ、ベートーヴェン、ブラームスの国』というイメージがありますよね。でも、一般の方は意外とクラシック音楽になじみがないんです。結局は日本と同じで、自分たちの文化について学ぶ機会は必要なんですよね」
「シンフォニックコンサート」のプログラムは、酒井格「たなばた」管弦楽版の世界初演、逢坂裕「アルトサクソフォン協奏曲」(2023)の関西初演、そしてムソルグスキー(ラヴェル編)「展覧会の絵」。
小林「もちろん、それぞれ色合いの異なる作品ではありますが、とてもフレッシュな印象のプログラムだと思います」
上野がソロを吹く「アルトサクソフォン協奏曲」の逢坂裕は、年齢こそ上野のひとまわり上であるものの、東京藝術大学で同期だった作曲家だ。大学時代から交流を続け、これまでにも4作品を委嘱してきた。この作品も上野が初演している。
上野「逢坂さんの作品は、とにかく音数が多くて、管楽器とは思えないような、息をする間もないほどのフレーズが続きます。でも、その細かい音の連なりを俯瞰して聴くと、とても長い旅をしているような感覚になるんです。
協奏曲では珍しい構成ですが、第2楽章はレクイエム。冒頭を聴くだけで涙が出そうになる、本当に美しい音楽です。初演からまだそれほど時間が経っていないのに、今回でもう4回目の演奏。これは本当に珍しいことで、この作品の魅力が広く認められている証拠だと思います」
いっぽう、今回が初演となる酒井格の「たなばた」だ。吹奏楽版(1988)はすでに広く親しまれているが、今回新たにその管弦楽版が生まれる。
小林「『たなばた』は、酒井さんがとてもお若い頃に書かれた作品だと伺っています。そのエネルギーを強く感じます」
上野も「吹奏楽の超名曲」とその魅力を語る。
上野「酒井さんは高校生のときに、ご自身が所属していた吹奏楽部のためにこの曲を書かれています。『高校生でこんな曲が書けるのか』と、本当に驚きます。それが世代を超えて演奏され続けている。ハーモニーが本当に美しいですし、おしゃれで、書法も巧み。とてもキャッチーでありながら、音楽としての深い味わいもある、本当に素晴らしい作品です」
そして、プログラムの最後を飾るのが「展覧会の絵」。小林は、音楽からさまざまな情景を思い浮かべることのできるこの作品が、「音楽への入口」になる可能性を指摘する。
小林「このコンサートの趣旨にも、とても合っていると思います。絵画と結びついた作品ですから、お客様にも情景を想像していただきやすいでしょう。多くの方が親しみやすいプログラムになったと思います」
その「展覧会の絵」では、逢坂の協奏曲の独奏者である上野が、オーケストラにも加わってサクソフォン・パートを吹く。
幅広い世代に音楽との出会いを届けようとするプロジェクトの姿勢は、価格面でも示されている。一般2,000円というチケット価格について上野も、「この内容で2,000円というのは本当にすごい」と驚く。さらに中高生300名の無料招待(注:8/31で申込み終了)など、できるだけ多くの若い世代にコンサートホールへ足を運んでもらうための取り組みも行われる。
初めてコンサートホールを訪れる人に向けて、小林は「自由に聴いてほしい」と語る。
小林「もちろん、事前に少し作品について知っていたり、予備知識があったりすると、それによって聴こえてくるものもあると思います。でも、何も知らないからこその自由さもあります。『自分にとってこの音楽はどう響いたのか』を感じられる場であってほしい。できるだけ自由に音楽と向き合える、そんな時間になればうれしいですね」
新しい作品との出会い、親しみやすい名曲との出会い、演奏家との出会い。音楽を好きになるきっかけは、人それぞれだ。「INAMORI ミュージック・デイ2026」は、そのきっかけを見つけるための一日。11月3日、ロームシアター京都で、小林資典と上野耕平と京都市交響楽団が、新たな出会いを用意して待っている。
取材・文:宮本明
【Information】
「INAMORI ミュージック・デイ 2026」シンフォニックコンサート
2026.11/3(火・祝)14:00 ロームシアター京都 メインホール【9/8(火)チケット発売】
出演/小林資典(指揮) 上野耕平(サクソフォン) 京都市交響楽団(管弦楽)
曲目/酒井格: たなばた(管弦楽版) INAMORI ミュージック・デイ委嘱 世界初演
逢坂裕:アルトサクソフォン協奏曲 上野耕平委嘱作品 関西初演
ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」
問:公益財団法人稲盛財団(INAMORI ミュージック・デイ担当)075-353-7272(平日14:00〜17:00)
◎関連イベント
「INAMORI ミュージック・デイ 2026」ミニコンサート
2026.8/16(日)、9/1(火)、9/2(水)各日 13:00 15:00(各回30分公演) 京都市京セラ美術館 中央ホール
出演/京都市交響楽団
無料・申込不要 ※無料で入場できるエリアで実施します
「INAMORI ミュージック・デイ 2026」スクールコンサート&レッスン
2026.10/30(金)13:00頃開始予定 京都府立福知山高等学校
参加者/高等学校・附属中学校の全校生徒
出演/上野耕平
※関係者のみのイベントです
