
さくらんぼの季節の風物詩、山形交響楽団による東京公演は、毎年東京オペラシティで開催されてきた。今年はホール改修中につき、サントリーホールでの公演となった。同楽団がこのホールで主催公演を行うのは33年ぶりだという。
今回は、現在の山響を支えている常任指揮者の阪哲朗とミュージック・パートナーのラデク・バボラークの2人が登場。とりわけ、バボラークはプログラム全4曲に関わるという、さながら「バボちゃん祭り」と口にしてみたくなる演奏会になった。
そのバボラークの指揮による、ドヴォルザークの序曲「わが故郷」で演奏会はスタート。テンポを躍動的に変化させつつ、細かいバランスなどはさほど気にしない、愉悦的で闊達なドヴォルザークだ。
続くのは、モーツァルトの協奏交響曲 変ホ長調(独奏クラリネットをフルートに換えたバボラーク版)。ホルンを吹きながら要所で指揮をするバボラークのほか、フルート(客演)、オーボエ、ファゴットのソロに山響の首席奏者が入り、アンサンブルの一体感が強い。
サントリーホールでの音響効果もあったせいか、彼らのいつものモーツァルト演奏よりも響きが柔らかく感じられる。ソロだけでなく、それぞれの楽器同士の響きの受け渡しが滑らかで、音色のブレンドも豊か。ただ、強弱のコントラストは控えめで、起伏には乏しかった。それはおそらく、バボラークと仲間たちによる室内楽的なアンサンブルということを念頭に置いていたのだろう。阪の指揮による演奏も聴きたかった。

休憩後のプントのホルン協奏曲第5番では、バボラークはホルン独奏に専念。指揮台には阪哲朗が上がる。なんといっても、ナチュラル・ホルンを手にしたバボラークの超絶的な技巧の数々。ゲシュトップフト奏法を駆使して、音程や音色を自由自在にコントロール。レガート、アルペジオやトリル、そして重音まで響かせた。ナチュラル・ホルンを日本で演奏するのは初めてだというが、ベルのなかの手首の動きでここまで表現力を発揮するとはさすが名手と驚嘆するしかない。終楽章の主題では、犬の鳴き声なども鳴り響き(このバンダのために6人の奏者を使うとはなかなか奢侈)、狩りの雰囲気を盛り立てた。曲としては結構なB級作品で、とりわけ緩徐楽章の安っぽさは冗談音楽かと思えるほどなのだけれども、そんなことを軽々と払拭させてしまう「バボラーク劇場」であった。

プログラム最後は、阪の指揮でブラームスの交響曲第1番。もしやと思っていたが、バボラークはホルン首席奏者としてオーケストラのなかに入っての演奏。オーケストラのなかで吹くバボラークといえば、かつてのチェコ・フィルやベルリン・フィル、現在ではサイトウ・キネン・オーケストラ。まさに贅沢なブラームス演奏となった。
冒頭から少し速めのテンポで、細やかにフレーズを重ねていく。そのなかに歌謡性をそっと息づかせるのが阪哲朗の持ち味だ。木管や金管もよく浮き出るバランス作り。阪と山響ならではの、無理も誇張もない、しなやかさをより強く意識させる演奏だ。
第2楽章でも、旋律をさりげなく歌わせた、淀みない運び。コンサートマスターの髙橋和貴のヴァイオリン・ソロとバボラークのホルンとの掛け合いも美しい。そのホルンは、終楽章の主題で雄大にして温かみのある響きで、もう一段高みのある演奏へと導いた。
バボラークが全曲に関わるプログラムというのも、おそらく山響だからこそ実現したプロジェクトといえるだろう。そうしたことを含め、人と人との繋がりが音楽になっていくという姿が浮き彫りになった演奏会であった。
文:鈴木淳史 写真:南條良明
(ぶらあぼ2026年8月号より)
山形交響楽団特別演奏会
さくらんぼコンサート2026 東京公演
2026.6/17(水)19:00 サントリーホール
出演
阪 哲朗(指揮)、ラデク・バボラーク(指揮・ホルン)*
曲目
ドヴォルザーク:序曲「わが故郷」 op.62*
モーツァルト:協奏交響曲 変ホ長調 K.297b(バボラーク版)*
プント:ホルン協奏曲第5番 ヘ長調*
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68*
【今後の公演情報】
第335回 定期演奏会
2026.7/25(土)19:00、7/26(日)15:00 山形テルサホール
出演
ジュリアン・ラクリン(ミュージック・パートナー 指揮・ヴァイオリン)
曲目
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 op.64
リスト:19のハンガリー狂詩曲第2番(管弦楽版)
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73
問 山響チケットサービス 023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp

鈴木淳史 Atsufumi Suzuki
雑文家/音楽批評。1970年山形県寒河江市生まれ。著書に『クラシック悪魔の辞典』『背徳のクラシック・ガイド』『愛と幻想のクラシック』『占いの力』(以上、洋泉社) 『「電車男」は誰なのか』(中央公論新社)『チラシで楽しむクラシック』(双葉社)『クラシックは斜めに聴け!』(青弓社)ほか。共著に『村上春樹の100曲』(立東舎)などがある。
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