ぶらあぼブラス!Vol.48 花咲徳栄高等学校吹奏楽部(埼玉県)
みんなで行こう、私たちの「甲子園」へ!

取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)

 鳥肌が立つほどの迫力ある演奏が、次々とステージ上で繰り広げられる。

 2025年の全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部——人呼んで「吹奏楽の甲子園」。

 当時高2だった花咲徳栄高校吹奏楽部の竹内凛(打楽器)と石塚ねね(クラリネット)は、出場校が繰り広げる熱演に客席で圧倒された。

 だが、凛とねねの心は燃えていた。
「私たち、来年はこのステージに出るんだよね!」

 ふたりはそう誓い合ったのだったーー。

左より:竹内凛さん、川口智子先生、石塚ねねさん

甲子園で野球部がくれたエール

 埼玉県加須市にある花咲徳栄高校。

 顧問の川口智子先生が率いる吹奏楽部は、西関東吹奏楽コンクールに17回出場し、実に14回の金賞に輝く強豪だ。しかし、まだ悲願の全国大会出場は果たせていない。

 一方、野球部も強豪として知られる。

 春の選抜高等学校野球大会(センバツ)に6回、夏の全日本高等学校野球選手権大会に8回、通算14回の甲子園出場を誇る。2017年の夏の甲子園では、埼玉県勢として初の全国制覇を果たした。

 その活躍を後押ししてきたのもまた、吹奏楽部だった。応援曲のレパートリーは100曲以上。

 《サスケ》や《オーメンズ・オブ・ラブ》といった代表曲に加え、野球部のリクエストで《倍倍FIGHT!》《好きすぎて滅!》など新たな曲も毎年追加してきた。

 今年3月、センバツに花咲徳栄高校野球部が出場。吹奏楽部はアルプススタンドに駆けつけ、力強い応援演奏を披露した。

今年3月春の選抜、甲子園のアルプススタンド

 今年、主将になった凛はこう振り返る。

「応援ではおもにドラムセットを担当しました。初めての甲子園での演奏でしたが、『対戦校の演奏に負けないよう、私たちも選手に届くよう音を響かせよう』と思いながら集中して演奏しました」

 一方、ねねは甲子園出場という目標を達成した野球部の姿に刺激をもらい、「次こそは私たちも」という思いを強くしていた。実は、ねねは強豪中学校として知られる越谷市立大相模中学校の出身だ。

「私は中2、中3と全日本吹奏楽コンクールに出場しましたが、どちらも銀賞でした。花咲徳栄は全国大会に出場していない学校でしたが、『自分たちの力で全国大会初出場を成し遂げたい!』と思って入りました。私たちの代にとって、そのために残されたチャンスはあと1回だけ。甲子園で応援しながら、絶対に自分たちも夢を叶えたいと思いました」

 2025年の全日本吹奏楽コンクールを、ねねは凛とともに客席から見た。そして、「このままでは終われない!」という思いを抱いた。甲子園球場で熱闘を繰り広げる野球部の姿に、そのときの思いが重なった。

 自分たちも向こう側へ行きたい。「甲子園」を見るのではなく、「甲子園」に出場する側になりたいーー!

 センバツで野球部は3回戦で敗退となった。

 全力でバットを振り、必死に白球を追いかけ、最後まで諦めずにグラウンドで躍動するその姿は、応援していたはずの吹奏楽部に逆にエールをくれたのだった。

元バスケ部の男子が実感した成長

 今年度、吹奏楽部は総勢80人となった。

 6月、地元埼玉の球団、埼玉西武ライオンズの応援演奏をベルーナドームでおこなった。ライオンズには花咲徳栄出身の西川愛也選手も所属している。

埼玉西武ライオンズ 西川愛也選手(中央)と吹奏楽部

 力強い演奏を披露した部員たちの中には、特別な思いでトロンボーンを吹く2年生、小郷(おごう)進治の姿があった。

 実は、進治は中学時代にはバスケ部に所属。高校から未経験で吹奏楽部に飛び込んだのだ。

「バスケ部では部長でしたが、部員たちのやる気の違いに悩みました。高校に入って吹奏楽部を見学したとき、みんながひたむきに練習に取り組んでいる姿に胸を打たれ、『自分も入りたい!』と思ったんです」

 進治は先輩の指導を受けながらトロンボーンの練習を重ね、1年目からコンクールメンバーに抜擢された。

 部内でも存在感を高め、高2になった今年は凛を補佐する副将にもなった。

「去年も花咲徳栄はライオンズの応援演奏をしたのですが、僕はまだ演奏がままならず、演奏曲名のボードを挙げる役目でした。今年は奏者として参加でき、自分の成長を感じることができました」

 花咲徳栄の演奏が特別な力を与えたのか、試合では西川選手がヒットを打ち、ライオンズも逆転勝ちを飾った。

 部員たちは喜びに沸いた。ライオンズからもまた、エールをもらったのだった。

左より:竹内凛さん、石塚ねねさん、渡辺彩楽さん、小郷進治さん

吹奏楽部で全国を目指すという運命

 そして、いよいよ季節は夏を迎えた。8月上旬からは吹奏楽コンクールが始まる。花咲徳栄高校吹奏楽部にとって大きな挑戦の季節だ。

 進治とともに副将を務める2年生の渡辺彩楽(さら)(ホルン担当)も熱い思いを胸に秘めている。

「私は花咲徳栄の吹奏楽部に入りたくて受験しました。私の中学校は強豪でも何でもなく、人数も少なかったので、大編成で高い目標を目指すということに憧れを持っていました」

 彩楽は兄が高校で野球をやっていたこともあり、甲子園球場で野球部を応援できたことも、ライオンズの応援演奏ができたことも嬉しかったという。

「ライオンズの応援団ともコラボしたんですが、みなさん温かくて、一緒に迫力ある演奏を届けられてよかったです。終わったあとには、観客の方たちから『ありがとう』『盛り上がったよ』と声をかけていただき、やりがいを感じました」

今年6月、ベルーナドームでの埼玉西武ライオンズの応援演奏

 次はいよいよ吹奏楽コンクールだ。彩楽はこんな意気込みを持っている。

「去年は先輩に引っ張ってもらいましたが、今年は後輩もたくさん入ってきたので、私自身が演奏面も行動面もしっかりお手本になりたい。そして、これまで親切に音楽を教えてくれた先輩たちと一緒に全国大会出場の夢を叶えたいです」

 進治もコンクールに向けて気持ちを高めている。

「こうして吹奏楽の世界に身を置き、全国を目指しているのも運命だなと思います。中学まではまったく知らない世界でしたが、すごく熱いですね。バスケはどうしても上手な選手中心になりますが、全員が息を合わせてひとつの音楽をつくりあげる良さがあると思います」

大きな天使の翼を羽ばたかせて

 今年の全日本吹奏楽コンクールは11月1日に開催される。会場は昨年の宇都宮市文化会館(栃木県)から、静岡県のアクトシティ浜松に変わる。

 凛やねねたちは目標を可視化するために大きな紙に『そして浜松へ』と書き、練習中もつねにみんなの目に入るように練習場の壁に貼り付けた。

 だが、全国大会に出るためには、強豪揃いの埼玉県大会を突破し、さらに厳しい西関東大会で3枠の代表校に選ばれなければならない。

 今年は自由曲として、フランコ・チェザリーニ作曲《交響曲第1番「アークエンジェルズ」》で勝負をかける。キリスト教の大天使たちをテーマにした壮大な曲だ。

「もともとは30分もある大曲。演奏も難しいので、時間をかけて完成度を上げていきたいです」

 そう語るねねは、やはり昨年目にした全国大会の光景が忘れられない。

「次々に出てくる学校の演奏を聴きながら、『レベルが違う』と痛感させられました。迫力がすごくて鳥肌が立ち、感動でうるっとくることもありました。『私たちも必死に頑張って、あのレベルに追いつきたい!』と思いました」

 花咲徳栄高校吹奏楽部の練習は日に日に熱を帯びていき、アークエンジェル(大天使)が大きな翼を広げつつある。

 一方、高校野球の県予選も始まり、応援にも力を注がなければならない。両立は時間的にも体力的にも大変だが、甲子園を目指す仲間の姿は、また吹奏楽部員たちに大きな刺激をくれるだろう。スタンドで奏でる音楽は、自分たちへの応援曲でもあるのだ。

 すべてを力に変え、大きな翼を羽ばたかせて、今年こそ行こうーー私たちの「甲子園」へ!


『吹部ノート —12分間の青春—』
オザワ部長 著
ワニブックス

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オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)

世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。