桑原志織 ピアノ・リサイタル
ショパン・コンクールの先へ―――伝統と革新を担う新世代ピアニスト

©友澤綾乃

 第19回ショパン国際ピアノコンクールで第4位に輝いた桑原志織が、全国8都市を巡る凱旋リサイタルツアーに臨む。 5月の大阪を皮切りに、9月には東京公演、11月には高崎公演が行われる。 ソロ・リサイタルでこれほどの規模で各地を巡るのは、彼女にとって初めての経験だというが、今年の1月下旬から2月にかけてはコンクール入賞者たちとのガラ・コンサートで日本各地を巡った。

「ツアーでは移動中に皆さんとおしゃべりをしたり、一緒に食事をしたりと、楽しい日々を過ごしました。 熊本では馬刺しを紹介したら、皆さん目を丸くしていましたね(笑)。 大きなコンクールで上位に入る方は人間的にも気持ちの良い方が多いです」

 そう語る桑原も、まさにそのひとりだ。 朗らかで明るく、同時に落ち着いた知性を感じさせる。 そんな佇まいからは意外なことに、幼少期は“活発”だったそうだ。

「小さい頃はかなりの“野生児”で、遠足で裸足で野原を走り回ったり、幼稚園の参観日にバレエを踊り出して止められたり(笑)。 習い事のなかでピアノだけは得意意識がありました。 中学生で恩師と出会い、本格的にこの道へ。 周囲に音楽家のロールモデルもいない環境でしたが、家族に導かれて一歩ずつ進んできました」

 そんな桑原が今、ピアニストとして立つのは、多様化の進む現代の音楽シーンだ。 自らの立ち位置をどう捉えているのだろうか。

「コロナ禍を経て演奏会のあり方が多様化し、新たな可能性が広がっています。 一方で、クラシック音楽にとっては伝統を守ることも大切な一面です。 私はアカデミックな研鑽を重ねた“正統派寄り”の人間ですが、デジタルネイティブ世代として、革新と伝統の橋渡しを担うピアニストでありたい」

 ツアーの東京公演ではモーツァルトのロンドやバッハ=ブゾーニの「シャコンヌ」、シューベルト「さすらい人幻想曲」に加え、ショパンのバラード第3番・第4番や「幻想ポロネーズ」などを披露する。 11月の高崎公演ではオール・ショパン・プログラムが組まれ、「舟歌」やソナタ第3番も加わる。 あらためてショパン作品の魅力について訊いた。

「ショパンの音楽の美しさに圧倒されますが、そこに込められているのは必ずしも清らかな感情ばかりではありません。 激しい怒り、深い悲しみ、人間の持つある種の醜ささえも滲みます。 しかしそれらがショパンの手にかかると、美しい芸術表現へと昇華される。 彼ほどピアノという楽器を深く理解していた作曲家はいないでしょう。 弾くたびに新たな発見があり、向き合うほどにその奥深さが増していきます。 その尽きることのない魅力を、皆様と分かち合えることを楽しみにしております」

取材・文:飯田有抄

(ぶらあぼ2026年6月号より)

桑原志織 ピアノ・リサイタル
9/9(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール(完売)
11/18(水)19:00 高崎芸術劇場 音楽ホール(完売)
問:ジャパン・アーツぴあ 0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
※全国公演の詳細は、上記ウェブサイトでご確認ください。

飯田有抄 Arisa Iida(クラシック音楽ファシリテーター)

音楽専門誌、書籍、楽譜、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジン等に執筆、市民講座講師、音楽イベントの司会等に従事する。著書に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」「クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら」(音楽之友社)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。