ムン・ボハ(ヴァイオリン)&エリザヴェータ・ウクラインスカヤ(ピアノ)、仙台国際最高位のふたりが待望の帰還!

 昨年の仙台国際音楽コンクール最高位の2人、ヴァイオリン部門のムン・ボハ(韓国)とピアノ部門のエリザヴェータ・ウクラインスカヤ(ロシア)が仙台に凱旋し、受賞記念リサイタルを開く。筆者はコンクール時の演奏には接していないが、昨年末に東京で開催された両者それぞれの受賞記念リサイタルを聴いて2人の優れた技量と音楽性に触れることができ、改めて仙台国際音楽コンクールの水準の高さを再認識させられた。ここではその東京でのリサイタルの印象をもとに、今回の仙台での演奏会への期待を綴りたい。

ムン・ボハ ©仙台国際音楽コンクール事務局

 ヴァイオリンのムン・ボハは若葉のような純な瑞々しさが魅力的だった。洗練された美音と音程の確かさから生まれる明澄な響きには人を惹きつけるものがある。何よりも音楽の運びが自然で、衒いやあざとさが少しも感じられないところに、作品に対する彼女の真摯な姿勢が窺えた。シューベルトの「幻想曲」ではストレートな運びのうちに純音楽的な美しさを表し出し、華麗なヴィルトゥオーゾ作品であるヴィエニャフスキの「ファウスト幻想曲」を弾いても、これ見よがしに名技をひけらかすことなく、むしろ格調の高さを引き出していた点に好感が持てた。

 今回の仙台でのリサイタルでもこの2曲が取り上げられるので、ムンのそうした美質が明らかにされるだろう。前半のプログラムは東京と違って、若きブラームスの情熱的な「スケルツォ」、バロック的な要素と近代的な響きが結び付くイザイの「無伴奏ソナタ第4番」、哀愁に満ちたドヴォルザーク(クライスラー編)の「スラヴ舞曲 ホ短調」、懐古的な幻想性を持つクライスラーの「ウィーン風狂想的幻想曲」といった作品が並べられている。それぞれ特質が全く異なる作品だけに、各々の曲の性格をムンがどのように弾き分けるのか、彼女のパレットの広がりが試されるリサイタルになりそうだ。

エリザヴェータ・ウクラインスカヤ ©Daniil Rabovsky

 新緑のようにフレッシュなムンとは対照的に、ピアノ部門の優勝者エリザヴェータ・ウクラインスカヤは(もちろんまだ若手ではあるが)すでに経験をかなり積んでいることを窺わせるような、成熟した大人の音楽を聴かせてくれた。芯のあるタッチと、太さと繊細さを併せ持つふくよかな音、そして幅広いダイナミクスをベースにしたその演奏には腰の据わった安定感があり、スケール感のある全体の構築と細部の濃やかな彫琢を一体化させた情感豊かな音楽作りには、リヒテルやギレリスに連なるロシア・ピアニズムの良き伝統が受け継がれていることが感じられた。その上で自身の個性もしっかり打ち出そうとしていることは、当夜演奏されたラフマニノフの「楽興の時」でのロシア的な叙情表現や、ムソルグスキーの「展覧会の絵」の各曲の絵画的な描出の工夫によく示されており、特に後者では壮大さの中で内面的な情緒を表出していく濃密な造型に圧倒されたものである。

 今回の仙台のリサイタルではお国もののロシア作品ではなく、モーツァルトの「変奏曲 K.455」、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲」、リストの「スペイン狂詩曲」、ショパンの「スケルツォ」全4曲といった、それぞれ国も時代も違ったバラエティに富んだプログラムを組んでいる点に、自身の様々な側面と多様な表現力を披露したいというウクラインスカヤの意欲的な姿勢が表れている。未来の巨匠を予感させるピアニストであり、その大器の素質は今回の演奏会でも感じ取れることだろう。

文:寺西基之

(ぶらあぼ2026年4月号より)

第9回仙台国際音楽コンクール最高位受賞記念
ムン・ボハ ヴァイオリン・リサイタル
2026.5/24(日)
エリザヴェータ・ウクラインスカヤ ピアノ・リサイタル
2026.6/7(日)
各日14:00 日立システムズホール仙台 コンサートホール
問:仙台市市民文化事業団 音楽振興課022-727-1872
https://simc.jp