美しき兄弟ピアノ・デュオ、ルーカス&アルトゥール・ユッセンによる来日公演が急遽決定!

欧州を席巻するふたりのエキサイティングな対話を聴く

 オランダからロックスターのような風貌をもつ兄弟ピアノ・デュオがデビューし、ヨーロッパ各地で大人気を博していると知ったのは、2010年にドイツ・グラモフォンと契約し、同年4月『月光~ユッセン兄弟デビュー』をリリースしたときのこと。彼らの名はルーカス・ユッセンとアルトゥール・ユッセン。ポルトガルが生んだ世界的なピアニスト、マリア・ジョアン・ピリスが育てた兄弟で、CDはオランダでわずか1日でゴールド・ディスク(1万枚)に、同年12月にはプラチナ・ディスクに認定された。翌年9月には『シューベルト:即興曲集』をリリース、これもゴールド・ディスクを獲得した。

 ルーカスは1993年、アルトゥールは96年生まれ。ふたりとも5歳でピアノを始め、これまで偉大な音楽家と数多く共演し、4手や2台ピアノの演奏はもちろんソリストとしての活動も行っている。初来日は2013年。録音では、ルーカスがおだやかかつ知的で繊細、アルトゥールはみずみずしく情感豊かでリズムが際立つ感じがしたが、実際のソロ演奏はより躍動感に満ち、4手の演奏も情熱的でリズミカルだった。

©Marco Borggreve

 彼らの父親はオーケストラのティンパニ奏者、母親はフルート奏者で教育にも携わっているため、子ども時代から音楽に囲まれ、2005年にピリスと出会ってからはピアノの練習に没頭するようになった。ふたり一緒に演奏すると音の対話が見事な融合を見せ、ひとりで弾いているような自然な流れを生み出す。2019年来日時のインタビューで、ルーカスはこう語っていた。

「現在はレパートリーに関しても音楽の表現に関しても、お互いの思いが一致しています。もちろん5年、10年後には異なる方向に歩みを進めるかもしれませんし、まったく違う作品を好むようになることも考えられます。でも、いまはある作品を演奏すると決めたら、まず別々に練習し、技術的に問題がないところまで仕上げてからふたりで合わせます。そこから表現力や解釈を深め、さらに完璧な演奏を目指していく。この過程が重要ですね」

 これに続けてアルトゥールは、今回のリサイタルで取り上げる作曲家の一人であるモーツァルトについて、次のように話した。

「音に無駄がまったくない。細部まで神経を張り巡らし、純粋無垢な気持ちで作品と対峙しないと真に美しい音楽は生まれません。全体を見るとかろやかな作品が多いのですが、実は重い指が必要です」

 重い指とは、深い打鍵と芯のある音、ホールの隅々まで浸透していく弱音を意味する。これらの奏法は、ピリス、メナヘム・プレスラー、ドミトリー・バシュキーロフから学んだ。

©Marco Borggreve

 今回の来日では得意とするモーツァルト、シューマン、ドビュッシー、ラフマニノフにヴィトマンが加わり、個性的な選曲だ。イェルク・ヴィトマンはドイツを代表する現代作曲家で(1973~)、クラリネット奏者としても活躍している。今回演奏する「色とりどりの小品」はふたりが2022年に初演したもので、こうした新作も流麗にこなす。モーツァルトのソナタ K.521とドビュッシー「6つの古代エピグラフ」では4手(連弾)であたかもひとつの声のように奏で、シューマン「アンダンテと変奏曲」、ヴィトマン、ラフマニノフの組曲第2番では2台ピアノで各々の個性を発揮し、さらに融合させていく。ルーカスのおだやかで静謐さと思慮深さを醸し出す演奏、アルトゥールのみずみずしさと躍動感あふれる演奏は、デュオになるとその対話が見事な調和を見せる。この完璧なシンクロが彼らの際立った美質で、聴き手の心を強くとらえて離さない。さらにふたりに共通しているのは、鋭敏な感性を遺憾なく発揮し、未来への大きな可能性を示唆することである。

 2027年1月には東京芸術劇場リサイタル・シリーズ「VS」、都響、京響への出演も決まっている。今回の来日はそれに先立つ演奏で、「いま」のふたりの充実ぶりが発揮される。とりわけ2台ピアノによるラフマニノフの各々の個性、音の融合と対話が聴きどころだ。

文:伊熊よし子


Bunkamura Produce 2026
ルーカス&アルトゥール・ユッセン ピアノ・デュオ・リサイタル

2026.4/7(火)、4/8(水) 各日15:00
浜離宮朝日ホール

♪曲目
モーツァルト:4手のためのピアノソナタ ハ長調 K.521 *
シューマン:アンダンテと変奏曲 op.46
ヴィトマン:色とりどりの小品
ドビュッシー:6つの古代エピグラフ *
ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲第2番 op.17
(*…連弾、その他は2台ピアノ)

問:Bunkamura 03-3477-3244
https://www.bunkamura.co.jp


伊熊よし子 Yoshiko Ikuma

音楽ジャーナリスト、音楽評論家。東京音楽大学卒業。レコード会社、ピアノ専門誌「ショパン」編集長を経て、フリーに。クラシック音楽をより幅広い人々に聴いてほしいとの考えから、音楽専門誌だけでなく、新聞、一般誌、情報誌、WEBなどにも記事を執筆。インタビューの仕事も多く、多い年で74名のアーティストに話を聞いている。近著は「モーツァルトは生きるちから 藤田真央の世界」(ぶらあぼ×ヤマハ)。
http://yoshikoikuma.jp/