大阪・豊中で実現する異次元の音の彫刻——中川賢一&松平敬が語るシュトックハウゼン「ミクロフォニーⅠ」

 直径170cmほどの巨大な金属板1枚から、めくるめく多彩な音響が立ち昇る……。シュトックハウゼン「ミクロフォニーⅠ」は、いわば“音の彫刻”なのだ。こう語ってくれたのは、バリトン歌手でこの作曲家のスペシャリスト松平敬だ。

左:中川賢一 ©Mika Oizumi
右:松平 敬 ©Studio LASP

松平「タムタム(銅鑼)って、普通は叩くだけの楽器でしょう。でも『ミクロフォニーⅠ』は、そこからあらゆる音を引き出し、マイクで音を拾ってリアルタイムで加工していくんです。今ではコンピュータを使って行われているライブ・エレクトロニクスの原型みたいな面白さがあります」

 驚かされるのは演奏者の手持ちでマイクを動かすこと。打楽器奏者のパフォーマンスにあわせて、マイクを楽器に近づけたり離したり上下左右にと、楽譜通り正確に動かすのは百戦錬磨の松平でも非常に難しいのだという。

松平「ほとんどダンスの振付みたいな感じなんですよ(笑)。しかも実際にマイクで拾った音をモニタリングしてみないと、これでいいのかどうか分からない。だから普通に演奏するのとは全く異なる、新しい音楽的な能力が求められるんです」

 「打楽器」「マイク」、そして拾った音を加工する「エレクトロニクス」というトリオが2組なので計6名。30分弱にわたって全員が一糸乱れず完璧にパフォーマンスしなければならない、難曲中の難曲だ。この曲を一生のうちに絶対演奏してみたかったと、今回の企画を首謀したのはピアニスト・指揮者の中川賢一である。松平とともに「マイク」を担当する。

リハーサル風景より。ハンド・マイクで銅鑼の音を収音、エレクトロニクスで拡張する。

中川「ベルギー留学から帰国する直前の1998年、ブリュッセルでこの曲に出会いました。見ていて面白いだけでなく、すごく良い音楽であることに衝撃を受けたんです。ところが特殊な楽譜なので必要なものさえ分からなくて。でも今回、この曲をよく知っている松平さん、演奏経験のある有馬純寿さんや佐原洸さん(以上エレクトロニクス)、畑中明香さん(打楽器)、そしてシュトックハウゼンの『コンタクテ』で共演した宮本妥子さん(打楽器)といった最高のメンバーと共に、28年越しの夢が遂に叶えられます! 有馬さんに相談したらリハーサルには丸々1ヵ月必要だというのですが、皆さん忙しいので数ヵ月前から石橋を叩いて渡らないくらい(笑)、慎重に慎重に準備と練習を重ね、本番直前に全員で1週間集中して稽古します」

 それだけ時間をかけて仕上げた演奏を、本番では雅楽などの日本音楽も素材にしている電子音楽の「テレムジーク」を挟んで2度聴ける。これは作品をより理解してほしいと願ったシュトックハウゼンの考えに沿ったもの。

中川「これだけ丁寧に準備した状態でこの作品が日本で聴ける機会は、一生に一度かもしれません。耳だけでなく、目で何が起きているのか含めて丸ごと体験してほしいです!」

取材・文:小室敬幸

(ぶらあぼ2026年2月号より)

中川賢一(マイクロフォン)& 松平 敬(マイクロフォン)
TRANCE 2026 シュトックハウゼン プロジェクト
2026.3/13(金)19:00 大阪/豊中市立文化芸術センター(小)
問:豊中市立文化芸術センターチケットオフィス06-6864-5000 
https://www.toyonaka-hall.jp


小室敬幸 Takayuki Komuro

1986年、茨城県出身。東京音楽大学で作曲を学んだ後、同大学院では音楽学を専攻。修了後は大学の助手と非常勤講師を経て、現在は音楽ライター。クラシック音楽、現代音楽、ジャズ、映画音楽を中心に演奏会やCDの曲目解説、雑誌やWEBメディアにインタビュー記事を執筆。また、現在進行形のジャズを紹介するMOOK『Jazz The New Chapter』にも寄稿している。共著に『聴かずぎらいのための吹奏楽入門』『ピアノへの旅』。